大丈夫、浮気じゃないから。
「ほら、馬口ってもう一個、インカレに入ってるじゃん。そこで知り合ったらしいんだけど、デートの報告会みたいなことしてたら、実は理学部の先輩の元カノって発覚したらしくて」


 サークルのメンバーのちょっとした失敗談。


「ジャンプで新しく始まった連載、読んでる? 『ブラック・マジック』ってやつ」

「あー、読んでる。ダークヒーローものでしょ? 結構好き」

「マジ? あれ、ジャンプらしくなくない? どうせすぐ打ち切りだと思うんだけどなあ」


 最近新しく気になった漫画の紹介。

 夕食を食べに行く間も、食べている間も、いつもどおりの会話で、違和感はなかった。松隆絡みの(いさか)いなんて忘れてしまったか、もとからなかったかのように。

 ……実際、あの日は沙那に煽られただけで、紘はあんまり気にしてなかったのかな。

 沙那のする話なんて、大抵は針小(しんしょう)棒大(ぼうだい)だし、それでもって話を聞く側も乗せられてしまうし、「生葉、あわよくばイケメンの後輩を狙ってるんじゃない」くらい言ったのかもしれない (ここまでくれば、もはや悪意があるけれど)。

 紘と茉莉の関係はともかくとして、松隆との関係をとやかく言われてもあんまり気にすることはなかったかもな──。そう考えると、少しだけ気分は軽くなった。

 ただ、私が松隆とのあの話に乗ったのは事実だし、それを撤回するつもりにはなれなかった。

 夕食を食べ終えて席を立つ前、ふと見たスマホには『TeiKyu Club:きたやま 打ち上げの出欠、今日中でお願いしまーす』というグループメッセージが表示されていた。


「紘、飲み会の出欠、連絡入れた?」

「あー、なんだっけ、それ」

「学祭の打ち上げだよ。っていうか、紘、学祭来るの?」

「いや、俺はサッカーのほうに顔出すから。生葉は手伝うんだっけ」

「んー、ちょっとだけね。客引きくらいはしようかなって」


 お店を出た後、私達はごく自然に私と同じ方向に歩き出す。


「なんかアイス食べたくない?」

「食いたい。コンビニ寄って帰ろ」


 家の近くのコンビニで「抹茶の気分」「私はチョコ。あー、いつものチョコバーがない」「この板チョコのやつは?」なんて他愛ない話をして、私の家に入りながら、紘が「ただいまー」と自分の家のように振る舞う。

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