大丈夫、浮気じゃないから。
 大学は4年間あるからいいか、なんて思っているうちに2回生の秋を迎えてしまった。紅葉くらいは見たいなと思っていたけれど、ただでさえ人が多いのに、紅葉の時期になれば身動きが取れないほどになると考えると、なかなか腰を上げる気にはなれない。


「映画見たあと、どっか行く? まだ紅葉には早いか」

「まだ早いね。紅葉はまた今度かな」

「観光客が多いんだよなあ」


 私の肩の上で、紘は溜息を吐いた。あまりデートらしいデートをしていない理由は、私も紘も出不精(でぶしょう)で、まあ部屋でのんびり映画を見るのでもいいか、と思ってしまうから。付き合ったばかりの頃は浮かれてあちこち行ったけど、半年も経てば、そこまでの浮ついた気持ちはなくなる。

 背後の紘が頭を上げ、私を少し振り向かせてキスをする。

 紘と夕飯を食べたのは2週間ぶり。紘が家に来たのは1週間ぶり。当然のように、キスは1週間ぶり。


「……紘、お風呂は?」

「……後で」


 浮気がどうのこうのと検索しているときに「手をつなぐと相手が浮気をしているかどうかが分かる」なんて迷信じみた記事があった。でも、もしそれが本当なら、私も紘と手をつなげば、紘が浮気しているのか分かるのだろうか。

 キスをしながら、ゆっくりと紘の手の位置を探って、指先で触れる。待っていたかのように、紘は指先を絡める。でも、私がしたかったのは手のひらと手のひらを合わせることだ。指先なんて、どうでもいい。でも座ったままの体勢では無理がある。

 仕方なく、手をつなぐことは諦めた。ベッドに放り投げられた後、服を脱がされながら、脱がしながら、紘の背中に腕を回して、キスの続きをする。

 なんでキスの最中は目を閉じるんだろう。キスをしながら、そんなことを考えてしまった。決まったルールがあるわけでもないのに、なんで私達が想像するキスシーンではみんな目を閉じるんだろう。なんで私もそうしているんだろう。

 キスの合間、下着を脱がされるとき、目を開けた。キスをしてないのに目を閉じておくのは、なんだか間抜けな気がした。実際、普段も目を開けていたと思う。

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