大丈夫、浮気じゃないから。
「よくいますよね、顔が良いだけで知りもしないのにキャッキャと騒ぐ女子。高校にもいたんですよ、あの手の女子。もし津川先輩が高校にいたら親衛隊隊長とか務め上げる最高にウザイ勘違い野郎になってると思います」

「松隆、その顔でその性格って本当に詐欺もいいところだよね」


 それどころか、どちらかというと顔の良さが逆コンプレックスのようになっている。私が騙されていなければ以下略。


「さすがにここまで言うのは津川先輩特有です。この間の飲み会だって、酔っぱらったふりかなんなのか知らないですけど、後輩に抱き着いて肩を組むって、男女逆ならセクハラもいいところですからね」

「まあ、それはね、うん。災難だねとしか……」


 松隆が沙那を好いていないという事実は、私達を結託(けったく)させている面がある。松隆には悪いけれど、沙那が松隆にうざ(から)みし、それに対して松隆がフラストレーションを(つの)らせているのは、私ばかりが松隆に愚痴をこぼす図が出来上がらないという意味でいいことだ。


「本当に天災もいいところです。あれでもうざいともなんとも思わないとか、どんな聖人君子ですか、それは」


 特に、酒を飲めない松隆は、飲み会でも常に素面(しらふ)。一方で沙那は酒好き。酔っ払いの先輩女子に絡まれるのはさぞかし鬱陶しいことだろう。ジュースを飲みながら、松隆は沙那の話題になるといつも柳眉(りゅうび)を寄せる。


「まあ、津川先輩の話はいいです。いつものことですし。ああでも、大宮先輩の話もいつものことですね?」

「なに? 私のこと嫌いなの?」

「まさか。だったらこうやって飲みに付き合ってません」


 薄暗い店内で笑顔が輝く。内心なにを考えているかは知らないけれど、松隆が嫌いな人間と好き好んでお喋りをするような、裏表のある人間でないことは知っていた。


「先輩も先輩で、なんで大宮先輩と付き合ってるのかよく分かりませんけどね」

「……なんでってなんで」

「だって、話を聞けば聞くほど甘ったれてますよね。先輩がダメ男専門に見えてくる」

「そんなことないです。あと、先輩を捕まえてダメ男と呼ぶのはやめなさい」

「いやあ、僕もサークルにいるだけだったら全然そんなことは思わなかったんですけど」


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