大丈夫、浮気じゃないから。
 ……なんで、私、紘とセックスができるんだろう。松隆とあんな話をしてから24時間経っていないのに。紘は私じゃなくて茉莉が好きなんじゃないかって思ってるのに。紘がシャツを脱ぎ捨てたあそこに、松隆が座っていたのに。

 紘に身を任せているのに、どうして私は、ずっとこんなことを考えているんだろう。普段、セックスのときって何を考えてたっけ。そもそも何か考えてたっけ。考えながらセックスってできるものなんだっけ。そういえば、男性と違って、女性はセックスの間も冷静だって聞いたことがあったな。それにしたって冷静過ぎる。私ってサイコなのかな。

 あれやこれや考えていたせいもあってか、セックスは作業か義務のようだった。「したい」とは思えなかったけど、かといって拒む理由は思いつかなかった。しいていうなら「気分じゃない」くらいの曖昧(あいまい)我儘(わがまま)な感情以外に理由はなかった。でも恋人とセックスをする「気分じゃない」なんて、まるで相手への恋愛感情を失ってしまったかのようで口には出せなかったし、そうだとしたらそれを認めたくもなかった。

 その作業か義務か分からない行為を終えた後、布団を口の当たりまで引っ張りながら、隣の紘を見た。いつものように、枕に顔を埋めてすんやりと寝息を立てている。何も言わなかったから、きっと何も思わなかったんだろう。そう思って、天井に視線を戻した。

 私と紘が付き合ったのは、今年の1月。いまは、付き合って9ヶ月と少し。もうすぐ10ヶ月を迎える。

 1年を迎えるのは、今年の冬休みが終わった後。私達は、ちゃんと1年を迎えられるのだろうか、なんて紘の隣で考える。





 そんな私の不安を空にしたように、次の日は朝からどんよりと重たい曇り空だった。


「うわ、午後から雨だって」

「マジか。映画見たらとっとと帰るか」


 なんなら3時頃から降りだすらしい。せっかくのデートにケチをつけられた気分だ。持っていく予定だったバッグは折り畳み傘が入らないので、仕方なく別のバッグにした。なんなら、雨に濡れても大丈夫なように、少し古いものにした。服だって、この秋に着ようと意気込んでいたものを着るのはやめた。レインブーツにしようか悩んだけれど、足首まで隠れると足が太く見えるし、そんなに強い雨は降らないみたいだし、やっぱり少し古いパンプスを選んだ。

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