大丈夫、浮気じゃないから。
 もちろん、八城九シリーズはキャラクターも魅力的だけれど、キャラクターの魅力は推理あってのものだ。実際、読んでいると、読者も八城九と一緒に推理を進めたくなるように書かれている。それが八城九シリーズの売りというのもあってか、アニメでも、容疑者の仕草や表情は細かく描写されていた。

 ただ、今回のショートフィルムのメインは推理ではなく、キャラクター。それはそれでいいけれど、ろくなアリバイトリックもなく、自棄になった犯人に自白させるだけの話は、推理ものとしてはなんとも釈然としない、後味の悪さがを残す。


「まー、そういうのもいいんじゃねーの。レビューでも、今回は諏訪が主人公だって書いてあったしさ」

「まあ、そうだね……」


 納得はしてないけれど、いつまでも拗ねてるわけにはいかないし、無理矢理頷かざるを得ない。そう頷きながら映画館を出て、アーケードの屋根の下から外の様子をうかがうと、すでに傘を差している人が何人かいた。


「うわ、本当に降りだしてる」

「面倒くせえなあ。屋根の下歩いて行こうぜ」


 映画を見る前にコーヒーを飲んでしまったし、1時間しか経ってないし、今からどこかに寄り道する口実はなかった。雨でなければ、屋根があるかどうかなんて気にせずにあたりを歩くだけでもよかったのに。

 そんな溜息を吐きながら、アーケードを出たとき──紘が「あれ、富野じゃん」と驚いた声を出した。


「生葉と大宮、デート?」


 私が顔を上げるより早く、沙那の声が聞こえた。途端に私の顔は強張(こわば)る。見た先には、沙那と茉莉と──あと3人、サークルのメンバーがいた。学祭担当の喜多山(きたやま)先輩がいることから判断するに、どうやら学祭の集まりらしい。


「なにしてんですか?」

「学祭の買い出し。ほら、コスプレして客引きしてもらうから、そこのドンキで買おうと思って」


 喜多山先輩の返事に「あー、なるほどね」と紘と揃って頷いた。


「大宮と生葉も来る?」


 そしてまた、沙那も余計な一言を口にする。

 いや、デート中なんで。学祭の仕事は、私には割り当てられてないし。そもそも、沙那と茉莉と紘がセットになるような組み合わせなんて避けたいし。私はこのまま紘と帰ります。


「んじゃ行くか、どうせ帰るだけだったし」


 そう口にできたら、どれだけよかっただろう。
< 62 / 153 >

この作品をシェア

pagetop