大丈夫、浮気じゃないから。
 松隆は沙那が嫌いだけど、沙那は松隆が好き。お陰で沙那がぽろぽろと松隆にプライベートな話を零してしまうことはよくある。そして松隆はそれを「なんで仲良くもない僕が聞かなきゃいけないんですか?」と迷惑そうな顔をして聞いて、私に話す。そこまでが一連の流れだ。

 それはさておき、沙那に彼氏がいなくなっただと……。ついこの間、それこそ紘と茉莉が一緒に映画を見ていたところを東野に呼び出されて云々なんて話があったのに。


「沙那が別れた彼氏って……東野だよね?」

「そうですね。僕は名前しか知りませんけど」


 東野は法学部の2回生なので、松隆が知らないのは当然だ。


「ほら、この間、大宮先輩の部屋から津川先輩だけ彼氏に呼び出されて帰ったって話があったじゃないですか」

「うん」

「あれが原因で、少し前の日曜日に別れたらしいですよ」

「少し前って……」

「10月最後の日曜日ですね」


 ということは、学祭の買い出しに行っていた日だ。きっとあの買い出しの後に別れたのだろう。そうでなければ、あの買い出しの最中に話題にしていたはずだ。


「津川先輩がふったらしいですよ。軽率にも男の部屋に上がり込んだことについて怒られたとかなんとか」

「そんなことで別れたの──って言おうとしたけど、そっか。まあ東野くん、男がいる飲み会すら嫌がるらしいからなあ。他に女子がいても部屋はアウトだろうね」

「相性最悪じゃないですか。なんで付き合ったんですかね」

「顔が好きらしいよ」

「津川先輩、そんなのばっかりですね」

「松隆、狙われちゃうじゃん」

「本当に無理です」


 いつになく冷ややかな声に松隆の本音を見た。これ以上は言うまい。


「先輩こそ、その東野さんを見習っては?」

「なにが?」

「大宮先輩の部屋に入った津川先輩がアウトなら、津川先輩と富野先輩を部屋に入れた大宮先輩もアウトでしょ」


 今度は私が苦虫を噛み潰す番だ。なんでこの後輩はしてやったりな顔をしているんだろう。沙那に狙われると言ったのがそんなに腹立たしかったのか。


「さすがにそれはいわゆる束縛の強い恋人でしょ」

「まあそうだろうなとは思いますけど」

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