大丈夫、浮気じゃないから。
「松隆と何の映画を見るっていうの……。あ、でも松隆って映画好きなんだっけ。面白いのあったら教えてよ」

「そんなこと言われても、個人によって趣味はあるんですから。僕が面白いと感じたからといって先輩が同じに感じるとは限りませんし、少しは好きな映画を絞ってくれないと」

「……松隆、実は理屈っぽいからモテないんじゃない?」

「本当に先輩は僕に失礼ですね」


 先輩に失礼を連発するのもどうなんだと言い返したかったけれど、黙った。


「好きな映画ねえ……基本的に小説の映画化しか見ないんだよね。あ、恋愛ものは嫌い」

「恋愛もの、見てみたらいいんじゃないですか。大宮先輩との関係の参考になるかもしれませんよ」

「そう思って『盲目的な恋情』って恋愛もの小説を買って読んだけどさっぱり分からなかった」

「本当にやってたとは思いませんでした。もしかして馬鹿ですか」

「先輩に馬鹿って言うな!」


 キッと睨み付けていると、視線の延長上にいる紘がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。きょろきょろと辺りを見回すけれど、紘が話しかけそうな相手は私以外に見当たらない。

 きっと私に用事なんだろう。紘は、遠くから私に声をかけない。きっと、みんなの前でなんて呼べばいいのかが分からないから。


「お前、今週ひま?」


 案の定、用事があるのは私だったようだし、呼び方は「お前」だ。松隆はそっと、私と紘に気を遣うように一歩下がる。紘は松隆に視線を向けることはなかった。


「今週……って土日のこと? 別に暇だけど」

八城(やしろ)(ここの)シリーズのcase2、見に行こうって話してただろ。あれ、土曜はどうかと思って。午後なら富野も空いてるらしいし」


 あー、その話ね。隣の松隆がそう思っているのが気配だけでも伝わってきた。本当は足を踏みつけたかったけれど我慢した。


「えーっと……」


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