大丈夫、浮気じゃないから。
 八城九シリーズのcase2とcase3を見たいのは、期待半分、惰性半分。case1が駄作だったからといって、case2とcase3もそうだとは限らないわざわざ劇場に1500円を払ってまで見に行くほど期待値は高いか? そもそも、紘だけじゃなくて茉莉とも一緒に行くことにどれだけの楽しみがある? 茉莉の予定をご丁寧に確認した後に彼女(わたし)の予定を確認する紘と、茉莉と、映画に行くことに、どれだけの楽しみが。

 なんとなく私は見なくていいかなと思ってる。でも、断ったら、紘は茉莉と2人で行くの? ──それが本音だったけれど、まるっと全部口に出すなんてできるはずがない。


「……ううん、八城九シリーズの映画はいいや。case1が残念だったし」


 せいぜい口に出せるのは、前半だけだ。


「え、いいじゃん、case2は脚本が違うから面白いかもしんねーよ」

「……でも、私が好きな八城九はやっぱり忍名竜胆の脚本ありきだし」

「そう? んじゃま、いっか」


 会話終了。紘は(きびす)を返すけれど。


「先輩、一緒に見る相手探してるなら、喜多山先輩とかどうです?」


 松隆がささやかな攻撃を仕掛けた。それどころか「ほら、喜多山先輩ってアニメなら何でも見そうですし」なんて畳みかけるものだから思わず表情を変えてしまいそうになる。

 それをぐっと堪え、紘の表情を伺う。さすがに茉莉と一緒に見るとは答えないだろうけれど、どう出る。


「喜多山先輩はいいだろ、case1見てるか分かんねーし」


 紘の表情も回答も無難で、内心を()(はか)るには材料が足りない。しいていうなら、茉莉もcase1は見てないじゃんとは思ったけれど、さすがに口には出せない。


「松隆は見てんの?」

「いえ、見てないです。小説は読んだんですけどね」

「あそ」


 それ以上、紘と松隆との会話は続かなかった。わざとらしく「さーてバイトバイト」と言いながら、立ち去った。


「……なに、さっきのジャブ」

「ジャブですよ」

「何を狙ってのジャブなの」

「出方をうかがっただけですよ。なんて答えるつもりなのかな、と」


 ……私にとっての茉莉が紘にとっての松隆になるように協力してほしいとは頼んだけれど、それは、そこまでするのは、なんというか……。


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