大丈夫、浮気じゃないから。
「先輩、『螺鈿の悪意』見に行きません?」
「……え、ごめん、なに?」
考え込んでいたせいで聞いていなかった。松隆は「映画見に行きましょうって言ったんですよ」と (多分)同じことを繰り返す。
「……八城九シリーズじゃなくて?」
「じゃなくて、です。『螺鈿の悪意』っていう映画ですよ」
「なにそれ、聞いたことない」
というか、さっきまで私の趣味が分からないから云々(うんぬん)と言っていたくせに。首を傾げると「推理もの、好きなんでしょ? これもミステリーですよ」とスマホを見せてくれた。どうやら『螺鈿の悪意』のPVらしい。
PVによれば、ある日、一人の作家・海山陸が殺害される。その容疑者に浮上したのは、その作家と高校の同級生だった作家・黒木なつめ。しかし黒木なつめには動機がなく、なによりアリバイもある。刑事の高村雄平は、釈然としない気持ちを抱えつつも黒木なつめの取調べを終了するが、ある日、黒木なつめが、海山陸の明けた穴を埋める形でて新連載を始めたことを知る。高村雄平は、先輩刑事たちに「お前の勘はあてにならん」「いい加減真犯人を探せ」とどやされながらも黒木なつめの周辺を徹底的に捜査していく──。
「へーえ、面白そう」
不気味で暗い雰囲気の映画だけれど、少なくとも八城九シリーズのcase2に期待を寄せるよりはこれを見たほうがよさそうだ。
「いいじゃん、見に行──」頷こうとして「……いや待って。松隆と2人で行ったら問題があるでしょ」
「なにか問題でも?」
「問題でしょ?」
だってそれはデートじゃないか──。口には出さずとも、松隆には伝わったはずだ。ふ、と松隆はスマホ片手に不敵に笑う。
「じゃ、こういうのはどうです。今週の土曜日、大宮先輩が富野先輩と2人で映画を見たら、一緒に行きましょう」
紘が茉莉とデートをするなら、私も松隆とデートをする。紘にとっての茉莉が、私にとっての松隆になるように。それなら確かに、松隆に依頼した協力の内容に沿うし、まさしく私が松隆に期待するものだ。
「……それならいいよ。っていうか、私のほうから頼むべきことかもしれないけど。でも、あの2人が映画に行くかなんてわからないじゃん」
「……え、ごめん、なに?」
考え込んでいたせいで聞いていなかった。松隆は「映画見に行きましょうって言ったんですよ」と (多分)同じことを繰り返す。
「……八城九シリーズじゃなくて?」
「じゃなくて、です。『螺鈿の悪意』っていう映画ですよ」
「なにそれ、聞いたことない」
というか、さっきまで私の趣味が分からないから云々(うんぬん)と言っていたくせに。首を傾げると「推理もの、好きなんでしょ? これもミステリーですよ」とスマホを見せてくれた。どうやら『螺鈿の悪意』のPVらしい。
PVによれば、ある日、一人の作家・海山陸が殺害される。その容疑者に浮上したのは、その作家と高校の同級生だった作家・黒木なつめ。しかし黒木なつめには動機がなく、なによりアリバイもある。刑事の高村雄平は、釈然としない気持ちを抱えつつも黒木なつめの取調べを終了するが、ある日、黒木なつめが、海山陸の明けた穴を埋める形でて新連載を始めたことを知る。高村雄平は、先輩刑事たちに「お前の勘はあてにならん」「いい加減真犯人を探せ」とどやされながらも黒木なつめの周辺を徹底的に捜査していく──。
「へーえ、面白そう」
不気味で暗い雰囲気の映画だけれど、少なくとも八城九シリーズのcase2に期待を寄せるよりはこれを見たほうがよさそうだ。
「いいじゃん、見に行──」頷こうとして「……いや待って。松隆と2人で行ったら問題があるでしょ」
「なにか問題でも?」
「問題でしょ?」
だってそれはデートじゃないか──。口には出さずとも、松隆には伝わったはずだ。ふ、と松隆はスマホ片手に不敵に笑う。
「じゃ、こういうのはどうです。今週の土曜日、大宮先輩が富野先輩と2人で映画を見たら、一緒に行きましょう」
紘が茉莉とデートをするなら、私も松隆とデートをする。紘にとっての茉莉が、私にとっての松隆になるように。それなら確かに、松隆に依頼した協力の内容に沿うし、まさしく私が松隆に期待するものだ。
「……それならいいよ。っていうか、私のほうから頼むべきことかもしれないけど。でも、あの2人が映画に行くかなんてわからないじゃん」