大丈夫、浮気じゃないから。
「僕らはコーヒーしか飲んでないので食べれますよ、ポップコーン」「やめるんだ。でもポップコーン食べると喉乾くじゃん」「やめときます?」「やめといて、映画見たらケーキでも食べに行こうよ」ちゃっかり映画後の約束までとりつけて、私達はチケット片手に指定のシアターへ向かう。公開から暫く経っているからか、人はまばらだ。


「Fってどこらへん?」

「こっちですよ」


 座席探しは任される側なのに、松隆に先導されてしまった。後輩に先導されるなんて変な感じだな……と呑気に考えていたのだけれど、ストンと隣同士に座った瞬間、妙な違和感を覚えた。

 座席同士の距離は、決して遠くない。触れ合うほど近いとは言わないけれど、少なくとも隣にいる人の気配はいやというほど伝わってくる。

 それでもって、入っている人がまばらなせいで、私と松隆の隣は空いていた。孤島にぽつんと2人だけ座らされたような気分で、カップルシートでもないのに、用意された2人席に2人で座っているような、そんな妙な心地がした。


「デートじみてきましたね」


 その心地の正体をぴたりと言い当てられ、照れ隠しに (自覚してしまっているのが余計に恥ずかしいが)憮然(ぶぜん)とした顔つきになってしまった。空いている席側に肘をついた松隆は、相変わらず飄々とした態度で笑みを浮かべている。


「……一緒に映画見てるだけでしょ」

「一緒に映画を見るだけのことに腹を立てたのはどなたでしたっけ」

「でも私は松隆のこと恋愛対象じゃないから」


 ふいっと顔を背けてスクリーンを見た。上映まで少し時間があるので、スクリーンには他の映画のCMが流れている。


「こういう映画って何をきっかけに見ようってなるの?」


 都合よく話題を変えれば「こういうCMを見て、面白そうだったら覚えておくとかですかね」松隆は特に気にした様子はなく「これとか、面白そうじゃないです?」


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