大丈夫、浮気じゃないから。
「紘と茉莉が映画を見てるっていったって、3人で行こうかって話してたところを、私が行きたくなくてあとから断っただけ。紘と茉莉が最初から2人で行こうとしてたわけじゃない。それを、2人で映画に来てるのを見たからって鬼の首をとったみたいに騒ぎたてるのは……紘への信頼が足りない証なのかもね」


 結局、私はただ、紘が茉莉と出かけるのが気に食わないだけなのだ。自分より可愛くて、性格が良くて、それでもって紘と気が合う、そんな茉莉のことを紘が好きにならないわけがない。だから気に食わない。ただそれだけの、わがままだ。


「……そもそも大宮先輩が信頼を築くに足る行動をとっていたのかが問題だと思いますけどね」

「ん?」

「そもそも、烏間先輩は彼女さんのことを心配させたことがないんじゃないかってことですよ。大宮先輩と富野先輩、友達同士っぽいとはいえ、相当仲良いじゃないですか。あれって夏合宿からですよね?」

「……うん」


 紘と茉莉があそこまで仲良くなったのは、ほんの3ヶ月前からだ。

 茉莉は、1回生の夏合宿には来ていなかった。その結果、奇しくも、紘と茉莉は、サークル内での接点はそれほどなかった。話したことがないわけじゃないけど、飲み会で隣の席になったら話す、その程度。

 その関係が一変したのは、2回生の夏合宿。茉莉が、実は幼い頃に紘の実家の近くに住んでいたと発覚したらしい。それを発端に、漫画、スポーツ観戦、酒……と2人の共通の趣味がどんどん分かって、急激に仲良くなった。


「夏合宿からっていうと、たった3ヶ月前かって感じはするんだけど……8月の残りと9月丸1ヶ月って考えると」

「まあ、仲良くなるには充分な時間がありますね」

「……私と松隆しかりね!」


 別に特別なことじゃないよと言いたくて付け加えると鼻で笑われた。なんだこの後輩。


「本当に私のことを先輩だと思ってないよね……びっくりする……」

「思ってますよ。敬語つかってるじゃないですか」

「あまりにも形式的に過ぎる。……実を言わなくても、最初は松隆のことはすごく警戒してたからなあ」

「ああ、それはなんとなく分かってました」


 気付いていたけれど気に病んだことはなかった、そんなニュアンスで松隆は頷く。


< 81 / 153 >

この作品をシェア

pagetop