大丈夫、浮気じゃないから。
「だって先輩、めちゃくちゃ他人行儀でしたよね。山科(やましな)とかには遠慮がないのに、僕にはすごく当たり障りのない対応しかしない」

「だって松隆、イケメンなんだもん」

「イケメンの性格が悪いのは偏見。何度言えば分かるんですか」

「でも松隆、性格良くはないでしょ」


 松隆は無言でシフォンケーキを食べる。自覚はあるらしい。


「まあ、僕の話はどうでもいいです。大宮先輩と富野先輩は今頃なにをしてるんでしょうね」

「ほら、そういうところが性格が良くない」


 わざとらしくそっぽを向いてみせた。


「ていうか、なんでこんなことに協力してくれてるの? イケメンの貴重な大学生活をこんなことに費やしてていいの?」

「そうですね……成功報酬で何かもらわないと割に合わないかもしれません」

「……シフォンケーキごちそうしようか?」

「僕の土曜日、安くないですか?」


 でも確かに、紘は今頃なにをしているのだろう。茉莉と映画を見た後は帰ったのだろうか。今日の夜はバイトだから、少なくとも夜までには帰るだろうけど。


「……そういえば、もうすぐ茉莉の誕生日だ」

「大宮先輩が何をあげるか、見物(みもの)ですね」

「なんでそんないじわるを言うかね、君は。……何をあげてたら黒だと思う?」


 意地悪な回答ばかり寄越されるけれど、頼りにしているのは事実。さながら松隆は異性の気持ちご意見番だ。


「プレゼントしてる時点で、9割方は黒だと思います」

「……そう?」

「陽キャとかパリピとかなら別ですが、そもそも、僕だったら、仲が良い女子とはいえ誕生日プレゼントを渡しはしませんからね」


 そんなもん……なのか。でも言われてみれば、沙那の誕生日は6月だったけれど、沙那には何も渡していなかった。


「松隆は渡したことないの?」

「まあ、グループで仲が良いとか、誕生日会をするとか、そういうことなら分かりますけど。わざわざ一人でプレゼントを選ぶかと言われると選びません」

「狙ってるのに? アピールしないの?」

「アピールになるってことは、相手に自分の好意を気付かれる危険があるってことですからね」


 “危険”なんて形容されると、まるで好意ではなく殺意のようだ。


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