大丈夫、浮気じゃないから。
第三章
 今年の6月の話。


「空木、1回生とたこぱするから来いよ」


 烏間先輩に誘われたその会のメンバーは、烏間先輩のほか、喜多山先輩、みどり、山科、そして松隆くん。先輩達とみどりの4人で遊ぶことはよくあったけれど、その1回生2人は新メンバーだった。


「行きまーす。喜多山先輩の家ですよね」

「ああ。松崎さんと山科は喜多山の家に直行、俺と松隆と空木は買い出し」


 山科とみどりはまだ試合中だった。喜多山先輩は2人が終わるのを待って自宅に帰るから、私達がその間に買い出しをしておくという、いつもの寸法だ。

 ただ、いつもどおりじゃないのは、この後輩……。烏間先輩の隣に立つ、まだ高校生に見える1回生。じっと見てしまっていると、整った綺麗な顔が愛想よく微笑んだ。


「空木先輩と宅飲みするの、初めてですね。よろしくお願いします」


 その人当たりの良さが一層怪しさを掻き立てる。思わず苦笑いをしながら「よろしく……」と返した。

 松隆総二郎。1回生。烏間先輩と並んで美形の双璧と言われるほど綺麗な顔立ちをしている。物腰は柔らかく、愛想もよく、テニスも上手く……、非の打ちどころのない後輩。なにかにつけて女子に囲まれるのに、それを(かわ)して、山科(やましな)みたいな競馬好きのDJ顔と仲良くやっている。


「空木と松隆ってあんま話してるの見ないよな」

「まだ6月ですし。ねえ、松隆くん」

「そうですね。話してみたいと思ってたんで、楽しみにしてましたよ」


 話してみたいと思ってた……? 一体何を考えてるんだこの後輩……。スーパーへ向かいながら胡乱(うろん)な目を向けると、烏間先輩が「そんなに警戒するなよ、空木」と笑う。
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