大丈夫、浮気じゃないから。
「いいやつだよ、松隆」
「いや別に悪い子だと思ってるわけじゃないですけど……」
処世術と女子に慣れ過ぎてて怪しい、というのが率直な感想だった。
思い返すは、先月末に行われた、新入生歓迎会。2次会で、松隆くんと沙那が隣同士に座っていたとき、沙那がさりげなく、松隆くんの手に自分の手を重ねようとした。それに対して更にさりげなく、松隆くんは手を引っ込めて躱した。その様子を後ろから目撃してしまった私には衝撃が走った。こいつら慣れてやがる、と。
とはいえ、“慣れ過ぎて怪しい”というだけで松隆くんの何が悪いというわけでもない。スーパーでは「空木先輩、持ちますよ」と一番の下っ端らしく買い物かごを持つし、「空木先輩って飲む人ですか?」「いや、飲めない人」「じゃあウーロン茶でも買います?」と気を遣ってくれるし、買い物袋も重たいほうを持ってくれるし……。
「……松隆くんって気遣い出来すぎて気持ち悪いって言われない?」
「急になんですか」
悪いところは何もないけど、何もなさすぎて怪しい。先輩と買い出しに行っても何を買えばいいのか分からないとか、気の遣い方が分からなくて狼狽えるとか、気を遣いすぎて慇懃無礼になるとか、そういうことがあってもいいはずなのに、松隆くんはいつもこのメンバーで遊んでいるかのような顔をして溶け込んでいた。怪しい、と私の中では疑念が募った。
その疑念がますます強くなったのは、たこ焼きパーティーの終盤。実家から通っているみどりと山科が先に帰った後、先輩2人と私と松隆くんだけで続きをやっていたとき。
「松隆、空木が推しメンなんだってさ」
すっかり酔いの回った喜多山先輩が不意にそんなことを言った。
「はあ?」
思わず素っ頓狂な声と共に松隆くんを見た。喜多山先輩による思わぬ激白に、松隆くんが動じた様子はない。なんなら「ええ、まあ」なんて頷いている。ええ、まあ、じゃないんだよ。
「なに……なんの話ですか……」
「この間、男子会やってただろ」