大丈夫、浮気じゃないから。
 新入生歓迎女子会があるのに男子会がないなんて男女差別だ──そんなことを言い始めた喜多山先輩先導のもと、先週、女子会と男子会が開かれていた。女子会の話題といえばもちろん、サークル内で誰と誰が付き合っていて、2回生と3回生の恋愛沙汰といえばこんなものがあって、とコイバナが中心だった。一方で男子会の話題は一体なんだろうと思っていたら……。


「あの時にサークル内の推しメン投票をしててさあ」

「うわあ、ゲス……」


 なんでもないように話し出した喜多山先輩に顔をしかめてみせれば、烏間先輩と松隆くんは「え、言うほどゲスな話したかなあ。推しメン投票くらいじゃない」「烏間先輩、一人だけ爽やかぶるのはずるいですよ」と素知らぬ顔だ。


「喜多山が言い出したんだよな、2回生は絶対松崎さんだって」


 チューハイ片手の烏間先輩が、チューハイの缶を持ったまま喜多山先輩を示す。喜多山先輩は「当たり前だろ!」と同意を求めるように頷いた。松隆くんを見ると「2回生の先輩方について、松崎先輩か富野先輩か、どっちが可愛いかで投票が行われたんです」と説明された。


「どう考えても圧倒的にみどりちゃんだろ! なあ!」

「さあ……。一般ウケは松崎さんかもしれないけど、富野さんもまあまあ正統派じゃない? というか、ミスコンとかでウケるのは富野さんじゃないかな」

「じゃあお前は茉莉ちゃん派か」

「いや俺は空木推しだから」

「はあ、どうも」


 流すと「かわいくねえなあー」と笑われた。そうは言っても、実際、烏間先輩は私と仲が良いから私の名前を挙げて逃げたのだということは手に取るように分かった。なんなら、下手に名前を挙げようものなら「本気か?」なんて言われてしまうおそれがあるけれど、私の名前を挙げておけば「ちゃんと真面目に答えろよ」と有耶無耶にできる。実際、喜多山先輩は「お前はそう言って投票しなかったんだよなー」と呆れた口調で「それでもって言うに事欠いて空木だろ」と私をカウントしない。


「……いや空木も可愛いよ? 可愛いけどね?」

「とってつけたようなフォローをされても嬉しくないんですけど」

「いやいやそんなことないぞ。空木も可愛いけど……まあほら、うん」

「フォローする気さえないじゃないですか」


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