大丈夫、浮気じゃないから。
「まあ、入ってきたときに思ったよな。多分コイツ津川に狙われるんだろうなって」

「本当に正直な話をすると、あの男子会で津川先輩はそういう妖怪なんだなと非常に納得しました」

「妖怪ってなんだよ、片っ端からイケメン食い散らかす妖怪か?」

「そうは言ってません。でもなんで津川先輩に彼氏が途切れないのか、疑問で仕方がないですね」

「すぐヤれそうだからだろ」

「こら喜多山、空木がいるんだぞ」

「…………俄然(がぜん)興味が湧いてきましたよ、男子会の話題」


 どうせくだらないゲス話で盛り上がっているのだろうとは思っていたのだけれど (現にくだらないゲス話をしていたようだけれど)、1回生に対してこんな風に要注意人物を教えているとは。自分の名が話題にのぼっていないかヒヤヒヤしてきた。男子は「女子会で何を言われてるかよりも、女子会で名前を挙げられないほうが怖い、そのくらい眼中にないってことになる」と話していたが、男子会に限っては名前を挙げられないに越したことはない。


「でも面白かったよな、松隆が推しメンを聞かれて『空木先輩ですかね』って答えた瞬間のテーブルの空気」

「え、なんでですか」

「大宮に聞かれたらマズイからに決まってるだろ」喜多山先輩は大きく口を開けて笑いながら「1回生のイケメンが自分の彼女を推しメンだって言い始めたら、そりゃ慌てるわ。空木、面倒見いいしな」


 そう……だろうか? 紘がそんなことで慌てるとは思えなかったけど、もしそうだとしたら嬉しいような恥ずかしいような、くすぐったい気持ちだ。

 喜多山先輩のその言葉を聞いた松隆は、少しだけバツの悪そうな表情になった。


「僕、空木先輩と大宮先輩が付き合ってるって知らなかったんですよね。知ってたらまあ、言わなかったんですけど」

「空木と大宮って、サークルだと一緒にいないもんな。なんで?」

「大宮が照れ臭いんだろ。ガキっぽいじゃん、アイツ」ニヤニヤなんて聞こえてきそうな笑みを浮かべながら、烏間先輩は「でもアイツ、話してたらめちゃくちゃ空木の存在アピールしてくるんだよな。付き合いたてのときとかすごかった」

「……それはどういう?」


 また、嬉しいような恥ずかしいような、むずがゆい気持ちが胸の内で湧き上がる。口に出しては言えないけれど、もちろん聞きたいし、烏間先輩はそんなことお見通しだ。

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