大丈夫、浮気じゃないから。
「空木はさ、付き合ったときに俺に連絡くれたじゃん。で、俺は知ってるって大宮に話してただろ?」
「ええ、まあ」
もともと、紘が好きだという話は烏間先輩にバレていたこともあって (なんなら相談に乗ってもらったことも多々あって)、義理として烏間先輩に真っ先に報告した。
「本当に、ことあるごとに空木の話するんだよな、アイツ。映画の話でも『友達が面白いって言ってた』でもいいところを、あえて『空木も面白いって言ってた』って言うんだよ。別に空木の名前を出す必要はないだろ? そこであえて空木の名前を出すってことは『空木は俺の彼女です』『一緒に映画に行きました』ってアピールなわけだ」
頬が緩みそうになったので必死に口に力を入れた。いうなればそれは、お世辞とか体裁抜きに紘が私を好きだと公言しているようなものだ。彼氏本人の口から聞く言葉が嘘くさいとは言わないけれど、自分の知らないところでの発言は信憑性が高いし、“彼女なんだ”と自覚させてくれる言動が嬉しかった。
喜多山先輩は「あー、いいなー! そういう甘酸っぱい青春いいなあー!」と喚くように嘆いた。
「俺も彼女ほしー」
「合コンするって言ってなかったっけ」
「したけど、反応が芳しくなかった。やっぱイケメンいないといけないんだけど、お前来ないもんな」
「だって彼女いるし」
「でも彼女より可愛い女の子がいるかもよ?」
「いないいない、俺にはアイツより可愛い女の子はいない」
「かゆいかゆい! 歯が浮くわ!」
間髪入れず切り捨てられた喜多山先輩を笑いながら、少しだけ、烏間先輩の彼女が羨ましかった。さすがの紘も断ってはくれるだろうけれど、冗談交じりでも、彼女がいれば合コンは行かないとはっきり拒否してもらえる立場が羨ましかった。
「でも烏間先輩、本当に目移りしないんですか?」
「しないなー。だから空木と付き合うことはないかなー」
「いや、私も烏間先輩と付き合うことはないんでいいですけど」
「なんでお互いにフッてんの? ルーズルーズの関係じゃん」
「そんなに可愛い彼女さんなのかなあって」
「彼氏にとっては彼女が一番可愛いもんだよ」
「いやいやいや、そんな『常識』みたいな顔されても」