大丈夫、浮気じゃないから。
「そんなこと言う男は間違いなくめちゃくちゃいい男ですよ」


 私と松隆で激しく頷いた。同時に、腹の中はブラックホールみたいな烏間先輩(かれし)にそんなに好かれているなんて、やっぱり羨ましく感じた。


「逆にそんだけ彼女のこと好きなら合コン行っても間違い起こらないだろ? やっぱ行ってもいんじゃね?」

「合コンで無駄な2時間過ごす暇があるなら彼女と2時間過ごすだろ」

「お前が彼女にフラれても絶対に合コンには誘ってやらないからな」男の(かがみ)みたいな烏間先輩を(そそのか)しても無駄だと悟った喜多山先輩は「え、ちょっと聞きたいんだけど、空木はどう?」と矛先を変える。


「もし大宮が合コンに行ったらキレる?」


 キレるかどうかは別としてイヤに決まってるじゃないですか。……と言いたかったけれど、男の先輩達の前でそんな女の子らしい嫉妬を口にするのは気恥ずかしかった。


「キレはしませんけど……」

「別れる?」

「別れるまでは言いませんけど……」

「空木は許しそうだよなあ、そういうの」


 許したくないです──と言いたかったけれど、言えなかった。

 解散し、喜多山先輩の家を出た後、烏間先輩は彼女の家に行くと言って、自転車で先に帰ってしまった。残された私と松隆くんは、2人で深夜の町を並んで歩く羽目になる。


「大宮先輩、気にしてました? 僕が男子会で言ったこと」

「え、いや、聞いたことはなかったかな……」


 そういえば紘は松隆くんのことをあまり好いていない──と思い出したけれど、そう言い始めたのが男子会より先だったかは覚えていない。でも──松隆くんには悪いけど──紘が、彼女をとられるんじゃないかなんて不安に駆られて松隆くんのことを嫌いになるのは、幼稚といえば幼稚だけれど、独占欲の現れのようで可愛く思えた。


「気にしてないならいいんですけど。気にしてたら、推しは変わったらしいって適当に言っておいてください」

「そんなこと言わなくても、酔っ払いに絡まれてたところを助けたらしいっていえばいいでしょ。異性の先輩としてどうのこうのってわけじゃないって言えば、紘は気にしないよ」

「そこは、僕には分からないんで」


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