大丈夫、浮気じゃないから。
 そうやって、自分の容姿や恰好をチェックするときは、いつも紘のことを頭に思い浮かべる。

 紘にとって、私は一番可愛いだろうか。そんなことを、考えながら。



(2)

 学祭の2日目は、夢見が悪かった。

 夢の中に松隆が出てきた。松隆はいつものとおり微笑を浮かべているだけで、何も言わなかった。何も言わない松隆に、なぜか背後から抱きしめられた。

 私も何も言わなかった。夢の世界に聞こえていたのは、異性に初めて抱きしめられたような胸の高鳴りだけだった。

 アラームの音で目を覚まして、スマホを手に取る。ディスプレイには「山科:画像を送信しました」「大宮紘:3時からシフト空いたけど、学祭まわる?」と表示されていた。とりあえず山科のメッセージを開くと、松隆のピン写が表示された。深緑の軍服に身を包み、白い手袋を噛むように(くわ)えている。続けて「マジイケメンしょ」「空木先輩には見せてあげないとと思いまして」「これで今日の売上はTKCがもらいです」とメッセージがきた。「さすがクソイケメンだな」と返事をしていると、今度はセミのコスプレをした山科の写真が送られてきて「鳴き続けて死にます」と書かれていた。顔面偏差値に合わせたコスプレを選ばれたかのような、酷い落差のある写真に朝から笑ってしまった。

 2枚の写真を保存していると新たなLINEメッセージが入って「先輩暇でしょ? 早く来てくださいよ」と松隆から呼び出しがきた。先輩を先輩とも思わないメッセージだったけど「イケメン軍人様にそれを言われては仕方がない」と茶化す返事をしておいた。

 紘に「今日は午後からシフトだよー」「ごめん」「明日は?」と返事をした。既読はつかなかった。スマホを一度手放し、ポフンと枕に顔を埋める。


「……変な夢」


 もう一度スマホを手に取って、ブラウザを開く。検索キーワード「異性」「夢」「抱きしめられる」──出てきた夢占いの結果は「愛されたい」。


「…………」


 別に、誰彼構わず愛されたいわけじゃない。私はただ──……。

 そもそも、恋人がいるのに恋人以外に抱きしめられる夢ってなんなんだろう。半分顔を埋めた枕の中から、左目だけでスマホを見つめながら続きをスクロールしていると、画面上部に「松隆総二郎:1時までには来てくださいよ」と催促がきた。

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