大丈夫、浮気じゃないから。
 別に、松隆が私のことを好きなわけでもないのに、夢の中の相手はなぜ松隆だったんだろう。ぎゅう、と一度目を閉じてから起き上がる。カーテンを開けると、学祭2日目らしい秋晴れが広がっていた。でも窓を開けると、爽やかというよりは少し寒い気がした。

 人が多いのは嫌いだし、面倒くさい。紘も、1日目はサッカーのシフトだし。そんな理由をつけて、学祭1日目は家に引きこもっていた。でも今日はシフトが入ってるから行かないといけないし、明日の最終日くらいは紘と……。考えながら、紘と学祭へ行くときに何を着るか悩んで、今日はサークルのスエットとパーカーで行くことに決めた。サークル名が書いてあるパーカーとスエットは宣伝にもなるし、ちょうどいい。

 そんなことを考えながら、控室へ行ったのは12時過ぎ。控室のテーブルにはいろんなコスプレがとっ散らかっていて、ポツリポツリと空いたスペースで各自が適当なお昼を食べていた。

 その中に、軍服の上着とブーツを脱いだ松隆がいた。本物の軍人かってくらい似合っているのにたこ焼きを食べている横顔がちょっと間抜けで、笑ってしまった。


「おつかれ。お昼?」

「ええ、午前から散々客引きさせられてこの有様ですよ」


 なんならちょっとだけ不機嫌だ。そりゃあ、この顔で「買いに来てね」なんて言われたらイチコロだろうし、それを見込んだ上回生から「さばいてこい」と大量のチケットを渡される様子は目に浮かんだ。


「午後からは先輩も売ってくださいよ。ノルマあるんで」

「原価率低いんだから、そんなに頑張らなくてもいいじゃん」

「散々働いた後輩に向かってそういうことを言わないでもらえます?」


 松隆が座っている席の近くに散らばっているコスプレ衣装をいくつか拾い上げる。キャビアアテンダント、看護師、チャイナ娘、お決まりのメイド……。どれを着たって別にいいのだけれど、寒いから丈の長いコスプレがいいな。


「先輩、チャイナ服とかいいんじゃないですか」

「うわ変態。こんなスリット入ったヤツ指定するなんて、セクハラだよ」


 テーブルの端にナスのかぶりものが転がっていた。本来、私の立ち位置的にはあれを着るべきなのかもしれないけれど、私が着ると本当にギャグでしかなくなってしまう気がして着たくなかった。


「メイドが一番暖かそうか……布多いし……」

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