大丈夫、浮気じゃないから。
鬱陶しそうに、手袋を噛んではずす。1回生女子が「かっこよ……」「マジイケメンなの分かってやってる」「でも騙されたい」と頷くのを後目に、松隆は私の後頭部に手を伸ばす。
「先輩、後ろ向いて」
ドクンと、心臓が緊張で跳ねた。背後で松隆が髪に触れている。さっきまで見ていた綺麗な指が自分の髪に触れている光景を想像して、頬が紅潮してしまいそうになる。
「先輩! 先輩! めっちゃ目の保養ですよ! その光景めっちゃいいですよ!」
後輩の女の子が興奮気味に教えてくれたけれど、ほんの僅かに髪が引っ張られたり、頭を指先が撫でたりする感覚に意識が支配されていて、それに上手くリアクションを返す余裕がなかった。
松隆の手が、後頭部で器用に動いている。ヘッドドレスが映えるよう、髪をお団子にしているのが手の動きで伝わってきた。
「……なんでそんなことできるの」
「昨日、頼まれて何人かにやったんですよ」
そっか、さすがに彼女にし慣れてるとかじゃないのか……。それにしたって、昨日の今日でできるなんて、やっぱり手先が器用に過ぎるけど。
「できましたよ」
鏡はなかったけれど「先輩かわいい! 似合ってますよ!」と近寄ってきた後輩が写真を撮ってみせてくれた。本当に、女子顔負けのきれいなお団子ができていた。
「あー、ありがと……。やっぱモテる男は器用だね」
「別に器用さはモテ要素に入らないと思いますよ」
「先輩と松隆くん、こっち向いてくださーい」
後輩女子に煽られたまま、向けられたスマホに向かって無理矢理笑顔を作る。
あれ、私、こんなことしてていいのかな。
シャッター音の後「マジで松隆くんの顔が良い……」「てか生葉先輩、メイドさんチョー似合う」「紅茶淹れてほしい」と1回生女子が思い思いに騒いでいる。それをいいことに「そういえば昨日の写真見せてよ」「いいですよお、みどり先輩の看護師とかチョー可愛くて」と松隆の傍を離れた。そのまま、口先では昨日の学祭の話で盛り上がりながらも、頭の中はさっきの自分達を俯瞰した光景でいっぱいだ。
机に座った松隆に、髪を結われた。ない。普通、異性にそんなことはされない。そもそも髪を触られることすらない。烏間先輩にさえそんなことはされない。他の同期の男子にだって、そんなこと──。
「先輩、後ろ向いて」
ドクンと、心臓が緊張で跳ねた。背後で松隆が髪に触れている。さっきまで見ていた綺麗な指が自分の髪に触れている光景を想像して、頬が紅潮してしまいそうになる。
「先輩! 先輩! めっちゃ目の保養ですよ! その光景めっちゃいいですよ!」
後輩の女の子が興奮気味に教えてくれたけれど、ほんの僅かに髪が引っ張られたり、頭を指先が撫でたりする感覚に意識が支配されていて、それに上手くリアクションを返す余裕がなかった。
松隆の手が、後頭部で器用に動いている。ヘッドドレスが映えるよう、髪をお団子にしているのが手の動きで伝わってきた。
「……なんでそんなことできるの」
「昨日、頼まれて何人かにやったんですよ」
そっか、さすがに彼女にし慣れてるとかじゃないのか……。それにしたって、昨日の今日でできるなんて、やっぱり手先が器用に過ぎるけど。
「できましたよ」
鏡はなかったけれど「先輩かわいい! 似合ってますよ!」と近寄ってきた後輩が写真を撮ってみせてくれた。本当に、女子顔負けのきれいなお団子ができていた。
「あー、ありがと……。やっぱモテる男は器用だね」
「別に器用さはモテ要素に入らないと思いますよ」
「先輩と松隆くん、こっち向いてくださーい」
後輩女子に煽られたまま、向けられたスマホに向かって無理矢理笑顔を作る。
あれ、私、こんなことしてていいのかな。
シャッター音の後「マジで松隆くんの顔が良い……」「てか生葉先輩、メイドさんチョー似合う」「紅茶淹れてほしい」と1回生女子が思い思いに騒いでいる。それをいいことに「そういえば昨日の写真見せてよ」「いいですよお、みどり先輩の看護師とかチョー可愛くて」と松隆の傍を離れた。そのまま、口先では昨日の学祭の話で盛り上がりながらも、頭の中はさっきの自分達を俯瞰した光景でいっぱいだ。
机に座った松隆に、髪を結われた。ない。普通、異性にそんなことはされない。そもそも髪を触られることすらない。烏間先輩にさえそんなことはされない。他の同期の男子にだって、そんなこと──。