大丈夫、浮気じゃないから。
「みどりは明日です」

「コスプレにセーラー服あったよなー。あれ着てくれないかなー」

「本当に気持ち悪いんで気を付けたほうがいいと思いますよ」

「そもそも、セーラー服はコスプレじゃないだろ。2年前までJKだったんだから古着を着ただけ、はいセーフ」

「そうだとして、それを私に()いてどうするんですか」


 北大路先輩の口にする欲望は、ある意味|普遍的(ふへんてき)に他の人にも当てはまる気がした。好きな相手の可愛い姿や格好いい姿を見たいというのは当然の欲望。

 ……紘は、私のコスプレを見たいとか可愛いとかは言わないだろうな。


「そういや昨日、山科とパチスロに行ったんだけど、やっぱアイツスゲェよなー。パチスロで生計立てれる」

「急になんですか」

「俺は負けて金欠なんだけど、こういう時に売上持ってるとやばいなって話をしたくて」

「松隆、代わって。北大路先輩に売上持たせちゃだめ」


 そう言いながら振り向いたところに松隆はいなくて、辺りを見回していると他大の女子大生に囲まれていた。仕方なく私が売上金箱を引き取れば、まんまと荷物持ちを交代させた北大路先輩にほくほくした顔をされた。


「先輩は……ギャンブルに女に、欲望に素直でいいですよね」

「人生1回しかないんだから欲望我慢したら損だろ」

「獣ですか」

「俺が獣なんじゃなくて、あの顔で女を(はべ)らせようとしない松隆みたいなのが仏か僧なんだよ」


 松隆はまだ女子大生に囲まれていた。横顔には「迷惑」の2文字が書かれていたけれど、売り子なので逃げるわけにはいかないのだろう。


「……北大路先輩は松隆の顔だったら女の子を侍らせます?」

「さりげなく先輩の顔をディスるな、そこ。いや松隆と比べたら仕方ないけど」


 憤慨するふりをしながら、北大路先輩は「ちなみに当然だ」と頷いた。


「あの顔ならリアル彼女は日めくりカレンダーしてみたい」

「……それって、彼女に悪いとか思わないんですか?」


 北大路先輩の顔が特別整っているわけでもないのは女性にとっての幸いかもしれない、お陰で遊ばれる女子が少なくて済む。そんな失礼なことを思いながら、呆れた溜息を吐いてしまった。


「要は浮気しまくりじゃないですか」

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