白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
「おまじないの出所は?」
「学院の図書館に『恋愛成就のまじない』という本が幾つも贈呈されていた。詳しく調べてみると元は黒魔導書から引用していたらしい。そしてその筆跡は、第三王子の傍付きと一致した」
「!?」
事件のスケールがどんどん大きくなっていく。いや王太子の代わりに呪われたという時点で、かなり大事だけれども!
緘口令が敷かれていた?
「……それと王太子の呪いを各部署、特に財務課に送ってきていたのは、第三王子ルーズベルト殿下あるいは、その一派の可能性が高い。もしかしたら『恋愛成就のまじない』が魔導書を元に書かれたものだと気づいて、呪いを分散させることで鎮火させようと画策したのか、あるいは他の意図があったのか……。その傍付きは現在行方不明なので、詳しいことはわからなかったそうだが……」
「第三王子ルーズベルト殿下の傍付きですと、アッシュ様ですわね。行方不明って……」
「……!」
ドミニク様の雰囲気がガラリと変わった。視線を合わせると、鋭い視線に射抜かれる。
ん? 私なにか変なこと言ったかしら?
「第三王子の傍付きと親しいのか?」
「へ?」
【まさか私と離婚した後、どちらかと一緒になりたいから離縁とか……】
ドミニク様は明後日の方向に勘違いをしていて、「どうしてそうなった!?」と思う反面、ヤキモチがなんだかくすぐったい。
「ふふっ、違いますわ。私が離縁したかった一番の理由は最初に話した通り、パティシエールになりたかったからです。それとルーズベルト殿下とアッシュ様は学院時代、クラスメイトでしたので、多少交流があったのです」
【そういえば……そんなことが報告書にあったような?】
報告書!? 身辺調査されていた!?
ううん、結婚するなら妻の素行調査は必要よね……。実際にお見合いだったなら、大抵の貴族はしているわ。政略結婚として当然だもの。
「第三王子の話ではアッシュは好きな令嬢から『恋愛成就のおまじない』の作り方を教えてほしいとせがまれたと、言っていたらしい。その時に幾つか試作品を見せてもらったそうだ」
「でも実際は図書館に紛れ込ませた?」
「ああ」
「それを学院の女子生徒が見て……、そこから他の生徒──令嬢たちに広がったのですね。お茶会やパーティーがあれば話題になりそうですし……」
「ああ」
「でも。それが私とドミニク様との婚姻時期に被るなんて……」
悪い時には悪いことが続くと言うけれど、続きすぎではないか?
そう神様に言いたくなる。そんなことを思っていると、ドミニク様の心の声が響く。