白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

 いつもと変わらない言葉の応酬。
 何度、頼んでも下りなかった許可に、私は目を伏せた。妥協して、折衷案を見せてくれるのなら応じるつもりだった──でも、答えは変わらなかったわね。公爵夫人として何不自由のない暮らしをさせて貰った。そんな身分でありながら、菓子作りなど取るに足らない道楽だと言いたいのでしょう。でも、私にとって菓子作りが生きる楽しみなの。
 そのためなら──。
 感情的な衝動を何とか堪えて、小さく溜息をこぼす。

「わかりました」
「……そうか」

 旦那様は私を一瞥することなくカップを手に取り珈琲を口にする。

「では三年目の結婚記念日──()()()()()()()()()()()()()()()()()()
「……は」
「七日後であれば白い結婚として成立しますし、問題ありませんでしょう」
「………」

 旦那様は驚くほど目を丸くして、カップを傾けてテーブルに珈琲をぶちまけていた。しかしそんなことに目もくれず私を見返す。
 旦那様と目があったのは、いつぶりかしら。美しいプラチナの長い髪、銀縁の眼鏡、瞳は鋭くも美しいエメラルドグリーン色で、端整な顔立ちなのだが、無表情だと恐ろしく見える。狙われた獲物の気分だわ。
 肌を刺すような威圧に耐え、今までの鬱憤を口にする。

「週末は屋敷に戻らず、娼館に足繁く通う女性がいるようですし、後妻はその方を一度貴族の養子にして結婚すれば角も立ちませんでしょう」
「…………」

 ここまで言っても何も言わないなんて……。会話する気も起きないってことよね。でも切り出した以上、覚悟を決めるのよ、私!
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