白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
「フランカ」
「……えっと、賊でも入ったのですか?」
「ほら旦那様。奥様は戻ってきましたぞ! 旦那様が奥様に嫌われたと誤解なさっているようです! それで唐突に短剣を……」
「ええ!? どうしてですか! 旦那様との話し合いをするために提案書を作りたいから席を離れただけですわ!」
「え」
「そのごめんなさい。……アイディアを忘れたら大変だと思って急いでいて」
「じゃあ……嫌いになったわけではない?」
「もちろんですわ」
「すまない。今でも夢じゃないかと……自信がないんだ」
旦那様のトラウマは、そう簡単には払拭されないってことね。大人になってから始祖返りになったんだもの、自分の身を守る方法を模索するだけでも大変だわ。
「信じたい……だが」
「もうわかりました」
「フランカっ、すまな──」
「謝罪は不要です。私も話半分に飛び出したのが悪かったのですから。旦那様、すぐには無理でも少しずつ信じられるように、私もできるだけ一緒にいる時間を増やしますわ」
「……っ!?」
「明日、私のお菓子作りを手伝ってくれませんか?」
「え」
「暫くはお休みをいただいたのでしょう? 今日は旦那様の都合に付き合ったのですから、明日は私に付き合ってくださいませ」
「フランカ……」
旦那に抱きつき、この方に安心してほしいと思うようになっていた。まだまだ伝わっていないのだから、もっと私からも好きだと言うのを伝えていこう。
「!? フランカからのハグ……」
「私はドミニク様……旦那様のことが好きですわ。だから不安になるようなことがあったら、声をかけて話し合いをすること。言い淀むのも、飲み込むのもなしです」
ギュッと抱きしめて背中を摩ったら尻尾が元気に揺れているのが、なんとなく分かった。
「フランカ。……君はなんて素晴らしい人なのだろう。私にまで慮って」
「夫婦はお互い思い合わないと、成り立ちませんよ? だから私も寄り添うので、旦那様も同じようにしてくださったら嬉しいですわ」
「ありがとう。……その、今日は私の番らしいのなら膝の上でなくともいいので、同じ部屋にいてくれないだろうか」
「もちろんですわ」
そう言いながら背伸びをして旦那様の頬にキスをする。ビクリと体を震わせて旦那様の耳が真っ赤になっていた。表情はまだ硬いけれど、喜んでいるのが分かるというのは安心するわ。
その日はプレゼン資料を作りつつ、新しいスイーツのレシピを考えるなど充実した時間だった。