白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
「その姿も可愛らしい。ギュッと抱きしめて離したくないぐらいに良い」
「ありがとうございます。でも、スイーツを作るのでハグは後で、ですわ」
「う……わかった」
コクンと素直に頷く旦那様が可愛いいし、腕まくりをする姿も素敵だわ。今回は旦那様も一緒に作るので、簡単なチョコブラウニーだ。
下準備には旦那様に手伝って貰って、薄力粉にココア、ベーキングパウダーを合わせてふるってもらった。その間に私は溶かしたチョコレートとバターを混ぜ混ぜ。旦那様にはボウルに卵、砂糖、牛乳を投下したものを混ぜて貰った。ここまで終わったら、旦那様に手伝って貰ってちょっとずつ私のボウルに卵をといたものを入れていく。それから艶が出るまで更に混ぜ込んで、途中でラムエッセンスを二滴たらした。
「あとは旦那様が合わせてふるった粉を加えてください」
「ああ」
「あとは混ぜるだけです」
「こんなに工程を踏むのだな」
「ふふっ、いつも私たちが食べている料理はもっと複雑で下準備やら色々してくださっているのですよ」
「そうなのか」
「はい」
貴族が厨房に入ることなど殆ど無い。知らないことを旦那様は興味深そうにしていて、表情は硬いままだけれど、その目はとても優しいものだった。それからオーブンで二十分ほど焼いたら完成となる。
生クリームを用意して、お茶の時間に出して貰うことにした。たくさん作ったので、半分は使用人たちに振る舞うことに。
やっぱり、使用人たち──顔見知りには私が作ったものでも不服そうな顔はしないのね。「ふむふむ」とその様子を見ながら、これなら妥協点を見いだせそうな気がした。
定番の旦那様の膝の上で、できあがって少し冷やしたチョコブラウニーを食べさせる。いつになく嬉しそうで、味わって咀嚼していた。
「んん……。妻の手作り。至高の一品だといっても良い」
「ありがとうございます。でも旦那様との合作ですよ」
「一緒の、共同作業!」
「そうですわね」
こんなに喜んでくださるなら、もっと前から自分で届ければよかったわ。
「妻がスイーツを作って私に食べさせてくれるなんて……夢のようだ」
「ふふっ。食べさせるのは最近ですけれど、これまでも時間がある時に旦那様の職場に送っていたでしょう」
「は?」
「え?」