白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

 怨恨……と言えるかわからないけれど、呪いに関わった行方不明のアッシュ様が主犯とか?
 私が死ぬことでダメージを与えられると考えた? 色々考えてみたが、動機が全く思い浮かばなかった。私も旦那様も接点がないのだ。推理力のない私には無理だと諦めて、馬車から飛び出して逃げる準備を整える。

 この世界での馬は元の世界よりも屈強で足が速い。特に王家や騎士団の馬車は特別な訓練を受けている。
 この馬車の速度も結構速いけど、森の中は更にスピードを落としているから、軽傷で済むはず! たぶん!
 今日は旦那様とお話し合いをすると決めているのだから、あまり遅いと旦那様が泣いてしまうわ。

 怖いけれど、もっと酷いことになる前に動かなきゃとドアノブを握って扉を開いた刹那──身を投げ出した。痛みを覚悟して頭を守る形で体を丸めて衝撃に備えた。が、いつまで経っても痛みは来ない。どころか何か温かなものに抱きしめられた。
 あれ?

「まったく、私の妻はどうしてこう豪胆なことをするのだか」
「──っ!」

 顔を上げると、真っ黒な蝙蝠の羽根を生やした旦那様が私を空中で受け止めていた。宵闇に映える神々しい姿に思わず見惚れてしまった。プラチナの長い髪に、捻れた黒い角。白目の部分は黒く、皮膚は鱗に似ていて、太ももほどの尻尾は私の腰回りに巻き付いている。

「旦那様!」
「やっと見つけられた。遅くなってすまない」
「いいえ。迎えに来てくださって嬉しいです」

 首に手を回して抱きつくと、旦那様の心臓の音が更に激しくなったのが聞こえてきた。汗ばんだシャツに、乱れた吐息は必死で探してくれたのだろう。嬉しさと安堵感……そして緊張が切れたせいか、そこで私の意識は途切れた。
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