白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
政治的な絡みでも、旦那様の女性問題でも無くまさか私が狙いだったなんて……。
「それから」
「きゅう」
「……っ、フランカ? フランカ!?」
申し訳なさ過ぎて、その後は気絶するように眠ってしまった。
色んなことが重なったせいかその後も高熱を出してしまい、お医者様からベッドから出る許可を貰えたのは、それから三日後だった。
眠っている間、何度も考えたけれど今回の一連の出来事は私がアッシュ様に目を付けられたために起こったことで、それに対して公爵家は甚大な被害を受けた。旦那様の始祖返りも重なったことで余計に複雑化してしまったけれど、この三年の間、旦那様の心の傷を深くしたのは、アッシュ様の計略のせい……。
でもそうさせたのは私で、私は思った以上に、面倒事を巻き込む質なのかもしれない。そんな面倒な女を旦那様は、どう思うかしら?
伴侶に選んで後悔しない?
幸いにも今なら番紋を刻んでいない以上、私と旦那様は竜人の枠では伴侶扱いにはならない。このまま旦那様が拒絶すれば、離縁することはできるわ。それに白い結婚も三年以上経っている。書類の上でも白紙にできる……もの。
ボンヤリとしていた意識がハッキリしてきたと同時に、やり直せないかもしれないと思うと胸が痛い。
最初は私から離縁と言い出したのに、こんなことになるなんて……。やっと夫婦らしいことができると思ったのに……。
「旦那様へのプレゼンが……無駄になったわね」
「なぜ?」
「──っ、旦那様」
いつの間にかベッドの傍に旦那様が佇んでいた。王城に出ていたのか制服姿のままだ。角や尻尾が出ていない時の旦那様は、眼鏡をかけて知的な印象を受ける。
「ノックをしたのだが、返事がなかったので勝手に入った。すまない」
「い、いえ」
「それで、どうして私へのプレゼンとやらが無駄なのだ?」
「それは……今回の件で旦那様にたくさん迷惑をかけた以上、私ではなく旦那様に今後の……その、離縁するかどうかの権利が移ったと思ったのです」
旦那様は深々と溜息を吐き、ベッドに腰掛けて私の頬に触れた。ヒンヤリとして心地よい。こんな風に触れられると期待してしまう。まだこの方の妻で居ても良いと──。
「旦那様」
「何を言い出すかと思ったら、私がフランカと離縁したいなんて言うはずがない」
「でも……」
「むしろ三年もかかって、まごついていた私の甲斐性のなさ、愚鈍さ、臆病なところ諸々を考えても私のほうが愛想を尽かされないか……。ここ数日、気が気ではなかった」
旦那様をよく見ると目の隈が酷いし、顔色も悪い。その姿に胸がギュッと締め付けられる。
「旦那様と離縁なんて……今は考えられませんわ」
「フランカ。……では、抱きしめても?」
「もちろんです」