白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

愛に狂った男の末路(アッシュの視点)

「よければ私のハンカチを使ってください」

 学院の入学式の時、第三王子──ルーズベルト様を庇って噴水に落ちた時に彼女がくれた物だ。自分への最初の贈物。
 それがフランカ嬢との出会い。
 第三王子の傍付きとして王子の引き立て役だった自分が、誰かから心配されることなんてなかった。打算や駆け引きなど一切ない純粋な好意。噴水に落ちたのは自分なのに、他の令嬢はルーズベルト様に群がるばかり。そうやって群がって囲んだせいでルーズベルト様が落ちそうになったわけで……。ああ、本当に腹が立つ。

 いつだって裏方で、損な役回りばかりを押し付けられる。でも今回はその最悪のおかげで運命の人に出会えた。陽だまりのように温かくて、初めてこの世界で息をしたような感覚に襲われた。
 フランカ・アメーティス伯爵令嬢。
 キイキイ喚くような我が儘な令嬢と違って大人な彼女を目で追うことが増え、卒業前には挨拶を交えるぐらいまで仲良くなった。

 会話は少なくとも仕草や雰囲気で自分のことを好いているのはすぐにわかった。彼女は自分にしかわからないサインをいつも出していて、本当に可愛らしい人だ。その証拠に彼女には婚約者がいない。自分が告白(プロポーズ)するのを今か今かと待っているのだろう。なんと慎ましくて愛らしいのだろう。問題は自分のほうで、自分には高飛車な婚約者がすでにいる。彼女をどうにか潰して向こうから婚約解消。その後にフランカ嬢に告白しなくては、節操のない男だと思われてしまうのは嫌だ。

 足止めとしてルーズベルト様の名前を使って後妻を欲しがっている貴族連中に紹介状を出しておいた。もちろん自分が関与しているような証拠は全て潰した。自分の婚約問題が終わった頃、彼女は困った求婚者の対応に追われて途方に暮れているだろう。
 そこを自分が助けてプロポーズからの結婚。
 根回しも、準備も念入りにしていたのに──僅か三日で全てのお膳立てをぶち壊して国王陛下に婚約及び結婚を取り付けた奴がいた。ドミニク・オーケシュトレーム公爵!

 自分が手にするはずの全てを横から掻っ攫いやがって!
 ああ、なんて可哀想なフランカ嬢! 
 大丈夫、自分がすぐに助け出してみせる。そう何度も手紙を書いて、計画を練り上げて帝国の闇ギルドにも依頼した。ちょうど魔導書による呪いでドミニク公爵に意趣返してやろうと、学院の令嬢を使って『恋愛成就のおまじない』を仕掛けた。ルーズベルト様に見つかった時は焦ったが、なんとか誤魔化せた。闇ギルドに記憶の上書きあるいは、忘却関係の魔道具を所持している者がいて助かった。
 呪いの広まりは想像以上に早く、そして王太子や第三王子を含む様々な人間に被害が出た。
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