白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

旦那様の視点1

 バルテン帝国の地下酒場──。
 表向きは酒場だが、実際は暗殺ギルドの窓口でもある。カウンター端に目を向けるとアッシュは酒を飲んで喚いていた。焦げ茶色の髪を一つに結び貴族服に身を包んでいる。

 帝国の領地かつ地下酒場で大国の貴族服というのは、かなり目立つ。探すのに苦労すると思っていたが案外抜けている。それとも新たな策でもあるのか。

「自分がフランカを幸せにする! 今もあの化物の妻でいる彼女を救えるのは自分しかいないのに! どうしてこうも上手くいかない!? ハッ、そうだ! 今まで裏工作をしてきたが、ここは正面からフランカを助けに──」
「その必要はない」
「!?」

 アッシュが振り返った瞬間、私の姿に目を見開き狼狽したが、すぐさま眉をつり上げた。ああ、この男はあまり頭が良くないようだ。こんな男にフランカとの時間を三年も潰されたのかと思うと、殺意が増した。

「ドミニク・オーケシュトレーム! お前さえいなければ!!」
「それはこちらの台詞だ。君さえ出しゃばってこなければ、私とフランカの三年はもっと素晴らしいものになったはずだ」
「黙れ、化物! おい、暗殺ギルド(お前たち)! 追加で金貨五十枚を払う。この男を始末しろ」

 様子を窺っていた黒装束の男たちは、間合いギリギリまで距離を詰める。二十人だろうか。殺気を放っているが、この程度か。

「我が国で神獣は吉兆とされているのには理由がある。神獣として覚醒する者は王家を必ず守護し、影から守る役目を担う。そしてそれはオーケシュトレーム公爵を筆頭とした一部貴族にしか代々伝わっていない」
「それがどうした? お前が化物に変わりはないだろうが」
「なぜ攻撃型に特化した姿なのか。それは有事の際、王家に刃向かう者を八つ裂きにするためでもある。今回の一件、私を追い詰めるだけではなく、第三王子を害したお前はこのまま生かしておく訳にはいかない」
「第三王子? ルーズベルト様がどうしたっていうんだ?」
「どうやらルーズベルト様を殺して成り代わるように指示を出したのは──()()()()()()()()
「はああああ?」

 そう今回の一件はアッシュが絵を描いたにしては、用意周到すぎた。そしてこの回りくどくねちっこいやり方には覚えがある。

「バルテン帝国皇太子デュランデル、君の仕業か」
「久し振りだな、ドミニク」
「どうせ今回も王太子と賭をしていたのだろう」
「ご明察」
「え、は?」

 刺客の中に一人だけ妙な者が混じっていると思ったら案の定、皇太子だった。外套を脱ぎ去ると貴族服に身を包んだ青年に早変わりした。漆黒の短髪に、金色の瞳、顔立ちも整っており皇族にふさわしい貫禄があった。
 アッシュは信じられないと言った顔のまま固まっている。

「盤上で誰がどう動くか。お互いの駒を使っての遊戯は中々面白かったぞ」
「悪趣味だな。昔よりも悪辣さが増したのではないか?」
「留学中は優等生をできるだけ演じていただけさ」
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