白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

 デュランデル・エスポージト・ファンティーニラ・ヴァッレ。彼は我が国で留学したときに知り合った悪友の一人だ。私、デュランデル殿下、王太子アルフレート殿下とは妙に馬が合い、留学中は三人で行動することが多かった。

「第三王子は俺やアルフレートにとっても邪魔な存在だったので、すげ替えさせて貰った。麻薬の密売は帝国、大国でも違法だったからな。致し方ない処置だった」
「ルーズベルト様がそんなこと──はっ、まさかあの大量の小瓶は……」
「令嬢をたらし込むために大量に購入したようだ。その支払いの金は国庫からの横領だったから、ついでにそこの馬鹿を利用することにした」
「私の動きを封じるためでもあったのだろう」

 デュランデル殿下は美しい顔を歪めて笑った。

「ああ。いつも澄ましたお前への贈物だ。その程度でアルフレートの刃が折れるなら折れてしまったほうが美しいだろう」
「相変わらずの鬼畜発言だな。このまま首と胴体を切断してしまおうか」
「クククッ、物騒なのはお前もだろうが」

 僅かに口元が緩んだ刹那、デュランデル殿下と私は剣を抜き──苛烈な剣戟に持ち込んだ。周囲にいた黒ずくめを斬りつけながら、互いの刃がぶつかり合い火花を散らす。
 今の斬撃の応酬で、黒ずくめは鮮血をまき散らし倒れ込む。それでもなお私とデュランデル殿下との剣戟は収まらず刃を交える。

「覚醒するだけあって膂力も速度も段違いだ」
「魔導具を駆使して、対処しきれている君のほうが恐ろしいぞ」

 相変わらず面倒事や荒事が好きな男だ。この男もまた暇を持て余して灰色の生き方をしていた──私の同類。私とアルフレート殿下は自分の唯一を見つけられたことで、この世界で息の仕方を知った。取り残されたことで八つ当たり、あるいはそれが本物の愛なのか試したかったのだろう。アルフレート殿下の婚約時も荒れたのを思い出す。

「君も唯一と出会えば変わるだろう」
「ハッ、ならそれまでは盤上遊戯を楽しみにしておくとしよう」

 そう言うなりデュランデル殿下は転移魔導具を使って消え去った。相変わらず言いたいことだけ言って帰る男だ。あちら側も闇ギルドを殺すだけの理由を探していたのだろう。体よく使われたのは釈然としないが、こちらはアッシュを始末できるので良いとしよう。

「あ、ああ……っ、こんなのは……夢だ……違う」
「あの世で、ルーズベルト殿下によろしく伝えておいてくれ」

 最後まで狂ったままアッシュは息絶えた。三年、デュランデル殿下の介入があったとはいえ、翻弄してくれたものだ。帰ったら今回の件を知っていたアルフレートも一発ぐらい殴ってもいいだろうか。いいよな。
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