白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
体格の良い王太子アルフレートは、外見こそ金髪に空色の瞳、甘いマスクのご令嬢が好む理想の王子像に近い。もっとも中身は腹黒で性格も歪んでいる。アルフレートのお眼鏡に適った次期王妃は、本当に運が悪かったと思う。こんな最悪な男に執着されてしまっているのだから。
なぜ賢王と呼ばれた国王陛下に、こんな化物が生まれたのか。謎だ。
「今、すごく失礼なことを考えただろう」
「まさか。事実を思っただけです」
「はあー、ドミニクは辛辣だな」
アルフレート殿下は政治や王太子としては非の打ち所がないのだが、恋愛観に関しては障害を乗り越えなければ、真実の愛は証明できない! と訳のわからない自論を持っている。これはアッサリ手に入ったら、大切な者の有り難みが分からないからだのもっともらしい事を言っているが、単に性格が悪いだけだ。
殿下は苦労して王妃を捕まえたので、友人である私やデュランデルにも同じ目に合ってほしいと思っているのだろう。やめて頂きたい。デュランデル殿下は単なる暇つぶし……。もっと最悪だな。
盤上遊戯では、大国と帝国の腐敗した存在を駒に見立てて潰し合うらしいが、それぞれ腹黒いことを考えていそうな気がする。知りたくもないが。
「アッシュはルーズベルトの乳兄弟でね。生い立ちも複雑でアッシュの母に王家も恩義もあった。だからフランカ嬢──いや夫人と恋仲だと言うことを信じて、婚約の打診に手を貸してしまった、あるいは利用したのかもしれない。それをデュランデルに勘づかれ、今回の絵を描いたのだろう。元々は麻薬密売を取り締まるところから出てきた情報だったしな」
そこで二人は私に黙って盤上遊戯を楽しんだという。ああ、できるのなら思い切り殴りたい。性格最悪の腹黒男たちが、いずれ国の頂点にそれぞれ立つのかと思うと恐ろしいものだ。特にデュランデル殿下には早々に運命の相手と出会って、骨抜きになってクソデカ重苦しい愛情をその思い人に向けて欲しい。
「はあ、早くフランカ──妻に会いたい」
「私だって婚約者に会いたいのだ。もう少し辛抱してくれ」
「嫌だ。あと三分で終わらせてくれ」
「ドミニクの重すぎる愛情は理解した。国宝も回収できたので、謝罪の品は後日贈るとして……デュランデルが帝国で大々的にパーティーを行うとのことで招待状が来ている」
「私たちは不参加で」
「ドミニクと奥方も来るようにと私の手紙に抱えてあったぞ。恐らく屋敷に招待状が届いているだろう」
「帝国の方角に竜の息吹を放っても許されるよな」
「待て待て待て! いつから冷静沈着ツッコミ役のお前がボケ役になったのだ! 今後困るのでツッコミ役に戻ってきてくれ! 冷ややかな目で『は? 何言っているんだ?』って役が居なくなるとブレーキが利かなくなるだろう」
「そんな役回りになったつもりはない!」
「息吹は本気でやめてくれ。誤射とか言い訳できないのでな」
「国王陛下がそういうのなら……」
「私と態度違うではないか!?」
「適切な対応だと思うが?」
「ドミニクが辛辣すぎる……容赦ないな」