白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

最終話 旦那様の視点3

 本当は屋敷に戻り妻との時間をできるだけ取りたかったが、書類の山があるため妻が財務課に来てくれることになった。たったそれだけのことが嬉しくてたまらない。結婚した時に一度は夢見ていたシチュエーションが現実化したことにホクホクしていた。
 一日ぶりの再会だが、すごく楽しみだ。

 彼女の愛くるしさを他の異性に見せるのは正直嫌だったが、愛しい妻が私のために手作りの菓子を持って来るのだ、嫉妬心よりも会いたい気持ちに天秤が傾いてしまったのはしょうがない。

 足早に財務課の客室に戻ると、愛おしい妻がソファにちょこんと座っていた。本当に可愛らしい。彼女が幼い頃、伯爵家主催のパーティーでマフィンを私に差し出してから、ずっと彼女に惚れたままだ。
 この話もいつか彼女にできればと思う。
 フランカの左薬指にある指輪を見て口元が緩みつつも、紳士的に声をかける。

「フランカ」
「旦那様。お仕事は大丈夫ですか?」

 とびきりの笑顔に、弾んだ声。
 愛おしくて、愛おしくてたまらない。首元にある番紋にウットリしつつ、今日は彼女の柔肌にしっかりと自分の痕を残さなければと、心に誓った。虫除けはしっかりしなければな。
 とりあえず彼女の隣に腰を降ろした。できるなら抱きしめてキスをしたいが、タイミングを逃してしまった。座った時に抱きしめれば……! だが妻の愛らしい姿に見惚れていたのでしょうがない。

「(おかえりなさい、と抱きしめるタイミングを逃してしまうなんて……。旦那様が少しお疲れの顔をしていたからジッと見てしまったけれど、また無理をしてないかしら?)お屋敷に一時帰宅は難しいと伺ったので、スイーツをミルフィーユからアップルパイにしてみましたの。休憩時に食べてくださいね」
「(私のために考えて、私のために作ってくれたアップルパイ! ……良い)今食べたいな。フランカ、一緒に食べないか?」
「え、あ」

 フランカは「仕事は?」と不安そうだったが、問題ないと告げたら嬉しそうに微笑んだ。可愛い。愛おしい。このまま屋敷に持って帰って食べてしまいたい……ぐっ。
 今日は夕方までに明日の午前中までの仕事を片付けてしまおう。そうしよう。
 そうすれば今日の夜はフランカとゆっくり過ごせる。

「そういえば、旦那様のご友人が今度パーティーを開くそうですね」
「!?」

 嫌なワードが耳に入った。できれば空耳であってほしい。

「……フランカ、その話をどこで聞いたんだ?」
「招待状を届けた方から、夫婦揃って出席してほしいと念入りに言われましたわ。旦那様の友人でもあるから、と」
「(空耳じゃなかった?)……どんな男だった?」
「え? ええっと黒髪に、赤銅色の瞳……それと顔立ちが整った方でしたわ」

 あの男、転移魔道具を乱用しすぎじゃないか。次に会ったら問答無用で殴ろう。蹴りでもいいか。

「彼に何か言われたりは、しなかったか?」
「んー、そうですね。人のモノを欲しがるとか変わった思考を持つような話をしていましたわ」
「(帝国滅ぼしてしまおうか……)他には?」
「一目惚れと告白されたので──」
「は?」
「もちろん、丁重にお断りしておきましたわ! 相手も冗談だったと思います。なんだか芝居掛かっていましたし」
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