極道に奏でたLOVE SONG
 学校の玄関を抜けると、迎えの車が待っていた。後部座席に座り、窓の外に目を向けると、さっきの女子生徒が懇談している姿が、校舎の窓から見えた。

 車がゆっくりと動き出しす。

 「待て!」

 私の声に、すぐに車は止まる。

 「お嬢、どうされました」

 羽柴が、緊張した声が車の中に響く。

 「少し待ってもいいか?」

 「はい。お嬢」


 しばらくすると、懇談の終わった彼女が玄関から出てくる姿が見えた。

 「あの子、身体中にアザがあるんだ。父親、嫌な笑い方するんだよな」

 「どうしやす? 締め上げてやりますか?」

 助手席に座る、車のドア開け係の若い男が言った。

 「よせ。何の解決にもならん。彼女への当たりが余計に酷くなるだけだ」

 「お嬢のおっしゃる通りだ」

 さすが、羽柴もよく分かっている。

 「はい」

 助手席の男は、シュンとしと返事をする


 人の家族の事に口出すなど、やるべきではない。

 「ねえ、羽柴。人が人を殴る事に、どんな理由がある?」

 「そうですね。もちろん、相手が憎い、相手への怒り、あと気合を入れる事もありますかね。ただ、最近は道理に反しているというか、自分のストレスなどをぶつける理不尽な事もあるらしいです。特に子供や年寄りに。情けない世の中になったものです」

 「そうなのか……」


 すると、校舎の影に入った父親が、いきなり女子生徒の足を蹴った。

 「成績が下がっただと。この私に恥をかかせやがって! このバカが! 全く、何の役にも立たない、お前もお前だ!」

 父親は、母親の足をも蹴った。

 私は車から降りると、ゆっくりと彼女の元へ向かった。

 彼女の父が、またもや蹴ろうとした足に、後ろからスッと自分の足をかけて通り過ぎた。父親は、見事にすっ転んだ。

 「お、おいお前、何しやがるんだ」

 私の背中に向かって、父親の苛立った声が響く。


 一応振り向いた。
 たまたま吹いた風に、長い黒髪が頬を掠って邪魔だ。

 「無抵抗に蹴られる人がいれば助けるのが人の道理でしょ?」

 「何だと? こいつの成績が下がったのが悪いんだ。なあ、そうだろ?」

 父親は彼女に向かって言うが、彼女は、驚いたように私の顔を見たままだ。

 「彼女の成績は彼女のものだよ。良くても悪くても背負うのは彼女だ。おじさんの殴る理由にはならないよ」

 「偉そうな事を。お前も殴られたいのか?」

 父親の手が私に向かって振り上がったと同時に、大きな手のひらが簡単に父親の手首を掴んだ。勿論、羽柴の手だ。別に避けることも簡単だったが……


 
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