極道に奏でたLOVE SONG
 「パパ! 彼女、轟川さん」

 「ええっ」

 父親の顔が真っ青になる。


 「ち、違うんだ……」

 「違う? 何が? 殴ろうとしたのは事実じゃないの?」

 「な、何ですか? あなた達、ヤクザなんだろ? 何でも暴力で解決してるあんた達が言うことじゃないだろ?」

 そう、これが現実だ。私が世間から見られている目はこんな物なのだ。


 「おじさん。悪いけど、私は、親のストレスや理不尽な理由で殴られた事は一度もない。暴力すら受けたことはない」

 「そんな……事、あるものか……」

 「おじさんが、どう思うと私には関係ない。でも、今のおじさん、ひどい顔しているよ」


 「あんた達ヤクザに、何が分かるっていうんだ? 俺達は、必死に真面目に働いてるのに、決まった稼ぎに、周りに頭ばかり下げている。自分の家族ぐらい思い通りにしたいと思って何が悪い!」

 「ダサっ」

 背を向けると同時に、バタバタと校長やら担任が走って近づいてきた。

 「何の騒ぎですか?」

 怯えたような、困ったような顔の先生方が並ぶ。

 「このおじさん、彼女を蹴ってましたよ」

 「な、何を言っているんだ? ふざけたことを! お前達も違うと言いなさい」

 父親は、彼女と母親に胡散臭い笑顔を向けた。


 すると、ずっと黙っていた彼女が、制服のスカートを捲った。

 「パパに蹴られた」

 そして、彼女はブラウスの袖も捲った。

 「これも……」

 その横で、母親が泣き崩れた。


 「違う、私じゃない! こいつらだ!」

 父親が、私と羽柴を指差した。

 バカな父親だ。


 「誰に向かっておっしゃているんですか? そんな言い訳が通じるとでも? 私達も舐められたものですね」

 羽柴が一歩父親に近づいた。言葉は丁寧だが、凍りつくような冷たい声だ。


 「ひえっー」

 父親が情けない悲鳴をあげた。

 「必要でしたら、証拠を提出しても構いませんよ」

 羽柴が、スマホを取り出しすと、スッと画面をスライドした。

 『成績が下がっただと。この私に恥をかかせやがって! このバカが! 全く、何の役にも立たない、お前もお前だ!』
 もちろん、父親が彼女と母親を蹴る姿も、手ブレひとつせずに写っている。

 羽柴は、丁寧に先生方に頭を下げた。

 私は、ただただ泣いているだけの母親の元へ近づく。

 「泣いてるだけじゃ、何も変わらないよ?」

 先生達が、アタフタと動き出す。

 私は、車に向かって歩き出した。その一歩後ろを羽柴が歩く。

 後のことは、知らない。

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