極道に過ぎた、LOVE STORY
人とかかわるまで
 部屋の外で、ガヤガヤしている声が聞こえる。

 「何かあったのか?」

 康が、恐々とした表情で聞いてくる。

 「さあ。私の来客なんて始めてだから戸惑ってるんじゃない?」

 「そうなんだ……」

 すると、コンコンとドアがノックされた。

 「入れ」

 組の若い男が、緊張した顔で入ってきた。

 「お話中、申し訳ありません。お客に、何をお出ししたらよろしいでしょうか? お茶、コーヒー、紅茶、ジュース、それよかお酒の方がやよろしいでしょうか?」

 「コーヒーでいい?」

 康に聞く。

 「ああ。お構いなく」

 と、康は頭を下げた。

 「はい。コーヒーお持ちしやす」

 男は出ていった。


 「はあー。なんだか、喫茶店並みのメニューだな」

 「ソフトクリームは無いよ」

 「ははっ。残念」

 康はやっと笑った。


 「この家、怖いでしょ? 出来れば近づきたくないものよ」

 「まあな、怖くないと言ったら嘘になるな。俺も、こういう所に来るの始めてだから」

 「そりゃそうでしょ。慣れてると言われたら、追い出す」

 「どうして?」

 「他の組と関係あるって思うでしょ?」

 「そう言うことか。色々、大変だな?」


 また、ドアがノックされる。若い男が、トレーにカップを二つ持って入ってきた。その、後ろに別の男達が続いて入って来た。クッキーやらチョコレート、和菓子に果物と次々と持って入ってくる。

 「すみません。何がよろしいか分からなくて」

 トモが、困ったように片手に頭を当てて、部屋から出て行った。

 「祭りか?」

 さすがに康も、驚いて大きく目を見開いている。

 「ソフトクリームは無いけど、良かったら食べて」

 「いいのか?」

 康は、嬉しそうにお菓子に手を伸ばした。次から次へと口に放り込んで行く。

 「お腹すいてるの?」

 「ああ。これからバイトだから食べとかないとな」

 「へえー。バイトしているんだ?」

 「ああ。授業料稼がないとだからな」

 「そう。忙しいのに、悪かったね」

 「別にいいよ。時間あったし」


 「でも、こんな所、二度と来ちゃダメだ。わかったでしょ?」

 「確かに、居心地は良くないけどな。でも、幸ちゃんの側から離れるつもりはない」

 「はあ? どうして?」

 「うん。始めて見た時、綺麗だと思ったんだ。それ以上は、俺にもまだ、どうしたらいいか分からないけど。今は、ただ側にいられたらと思う」

 「なにそれ?」

 「まあ、気にするな」

 「気にするよ。私の周りは危険なの。わかってよ」


 「そうだろな。じゃあ、お前、これからどうするんだよ。医者になるんだろ? この家の人間以外の人と、かかわらずには医者になんて慣れないぞ」

 「そんな事、わかってる……」

 正直、私が医者になったら迷惑をかけてしまう事になるんじゃないかと思う。


 「とにかく、俺は幸ちゃんの側にいたいと、思うから」

 「そんな……」

 「そんなに、俺の事嫌い?」

 「そう言う事じゃない。けど……」

 「なら、良かった。でも、今度来る時は連絡してからにするわ」

 「もう、来なくていいよ!」
 
 私の声を背に、康は、少しビクビクしながら皆に挨拶して、帰って行った。



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