極道に過ぎた、LOVE STORY
 うっーと声を出したかと思うと、嘔吐し出した、慌てて、近くにあったトレーを当てて背中をする。

 「気持ち悪いね。ここに吐いていいから」

 「すみません」

 隣の母らしき人も、具合悪そうである。

 「娘さんのお名前と、生年月日お願いできますか?」

 「飯沼寧々、八歳」

 片手で問診票を書きながら、熱を測る。

 三十八度七分。高い熱だ。


 「症状はいつ頃からですか?」

 「昼食後、少ししてからです」

 「下痢もありますか?」

 「はい。お腹がいたいと、何度もトイレに通っていて、緑の便が出ると言ってました」

 「今もお腹痛いかな?」

 寧々ちゃんは、大きく頷いた。私は、できるだけ詳しく症状を問診票に記入した。


 「お母様は、いつ頃から症状が出てますか?」

 「私は、二時間くらい前から胃がムカムカし出して」

 母親の顔も真っ青だ。


 「清水美代さん」

 看護師が呼ぶ声に、隣に座る清水さんが立ち上がった。ふらつく彼女を支える。

 「寧々ちゃん、処置空いたから移動してあげて」

 「はい」

 清水さんを看護師さんに引き渡した。


 「立てるかな?」

 抱えるように運ぶと、処置室のベッドに寧々を寝かせ、母にその横の椅子に座るよう促した。


 「幸ちゃん。点滴セット、2階の山田先生のところに持って行って」

 「あっ。はい」

 渡された点滴の入ったケースを抱え、二階に駆け上がった。

 外観から思っていたより二階も広い。あたりを見回していると。

 「こっちよ」

 若い女性の声のする方に走った。私と変わらないくらいの看護師だ。


 その横で処置している白衣の若い男性が、おそらく山田先生なのだろう。

 二階は入院病棟になっているらしい。反対側のベッドで処置に回っている康の姿があった。

 いつもの何考えているかわからない顔とは違い、私がいる事にも気づかない真剣な表情だった。


 私も、急いで階段を下り、待合室に戻った。

 ソファーには新たに、明らかにガラの悪い男が横たわっていた。

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