極道に過ぎた、LOVE STORY
 「大丈夫ですか? お名前お願いします」

 「三田村洋二…… うっ……」

 慌てて、嘔吐用のトレーを差し出す。


 「症状はいつ頃からですか?」

 「昼飯食った後、しばらくしてからだ。俺、死ぬのか?」

 「同じ症状の方大勢います。まずは先生に見てもらいましょう」

 「あんんた先生じゃないのかよ?」

 「すみません。まだ、学生で……」

 「何、謝ることはねえよ。見てもらえるだけありがてえ」

 額で検温するが、熱はた高い。


 必死で自分に出来る事を探して動き回った。

 点滴を済ませ家に戻っていく患者さん、そのまま入院となる患者さん。待合室に人がいなくなる頃には、とっくにその日は終わっていた。


 「幸、お疲れ」

 「康、もう、いきなりどういう事。ちゃんと言ってくれないと、流石に驚くよ」

 「いきなりでも、幸ならなんとかするんじゃないかって思ってさ。それに、理由を言ったら、どうせ人に迷惑かけるとかなんとか言って来ないだろ」

 「そうね。来なかった。はあー 疲れた」

 私は、目の前のファーにどさっと腰を下ろした。

 「お疲れ様。今夜はありがとう。申し遅れました、医院長の花岸と申します」

 「あっ。轟川幸です。医学部の五年です」

 慌ててソファーから立ち上がって、頭を下げた。


 「この前、話した子だよ。俺、この病院でバイトしているんだ。色々と勉強になると思ってさ」

 この前話した? 何のことだろう?


 「分かった。うちで実習受けるよ。大学には俺の方から連絡しておく」

 「ええー、どういう事ですか?」

 「康から、実習受けてほしい子がいるって頼まれていたんだよ。うちじゃ不満かもだがな」

 「いえ、そんな事は…… ただ、私の家は……」

 「家? ああ、轟川か? 関係ないけどね」

 「本当ですか?」

 「ああ。じゃあ聞くけど幸ちゃんは、患者を選ぶのかい?」

 「いえ。そんな事はしないです」


 「患者だって、最終的に選ぶのは腕のいい医者だ。ここじゃ相手の素性なんて構ってられないよ。まあ、やってみればいい。見えてくるものもあるだろ」

 「ありがとうございます」

 私は、深々と頭を下げた。


 「ああ、疲れたー。全く、食中毒なんて勘弁してくれよ」

 「山田先生、お疲れ」

 医院長が、ふっと笑った。

 「この美人さんは、どちら様? まさか康の彼女?」

 「違います!」

 思わず声を上げてしまった。

 「そんなに、否定しなくても」

 康が、下を向いて言った。

 「あはははっ。今度、うちに実習に来る、轟川幸さんだ」

 「よろしくお願いします」
 

 私は、頭を下げた。でも、轟川という名に、反対されるのではないかと不安になる。

 「よろしく。実習生なんて珍しいね。だけど、こんな病院でいいのか?」

 「こんな病院とは失礼だな。優秀なドクターを育てるのも、俺らの仕事だろ」

 医院長はニヤリと笑った。

 ほっとして、柄にもなくな目頭が熱くなった。

 こっちを向いていた康と目が合ってしまい、慌てて逸らした。

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