極道に過ぎた、LOVE STORY
 すぐに医局から、山田先生が下りてきたきた。

 「あ〜あ。派手にやったね。ベッドに寝かせて」

 「痛てぇ」

 男が悲鳴を上げる。

 「幸さん、ぼーっとしない、抑えて!」

 看護師さんに指示され、身が引き締まった。

 「は、はい」

 男の体をガシッと抑える。男の体は微々たりとも動かなくなった。

 「凄い力だね。手当てしやすいな」

 山田先生が驚いた顔を向けた。

 「そうですか?」

 そりゃそうだ、普段から組の男相手に訓練しているんだから、ベッドに寝かさてれている男を抑えるなんて、大した事じゃない。


 男は、腕に大きな切り傷を負っている。誰かと喧嘩でもしたのだろうか? 

 「ちょっと深いかな?」

 山田先生の処置をじっと見る。スムーズな手捌きを、しっかり頭の中に畳み込む。

 「幸さん、血平気なんだね?」

 「はい。大丈夫です」

 組の男達の傷で慣れてるとは、流石にい言えないが……


 その後、男は麻酔が効いてきたのか、眠りについた。

 一緒についてきた男達が、受付で手続きやら支払いをしている。

 「見た事ある顔じゃない?」

 いつの間にか、医院長が隣に立っていた。

 「いえ。会った事はないと思います」

 「そうか。轟川の組員だよ」

 「そうなのですか! お手数おかけしました」

 私は、何とも言えない申し訳ない気持ちで頭を下げる。


 「ふふっ。まあ、確かに騒がせてはくれるけどね。でも、保険にも入っているし、治療費を滞納する事もない。正直言って、世の中、保険に入っていなくて治療費を払えない人達もたくさんいるし、犯罪まがいの事も多い。世間的に良い事をしているとは思わないが、道理をきちんと通した組織だと、俺は思っている。もちろんそんなヤクザばかりじゃないし、最近はもっと卑劣な組織もあるみたいだしな」

 「そうなのですね。私の知らない事ばかりで」

 「そりゃそうだろ。ある意味、箱入りのお嬢さんだからな」

 「えっ? 箱入り?」

 確かにそう言われるとそうかもしれない。組に守られ世間知らずだったと、実習を始めて感じることが多い。


 「まあ、そんなに気にするな。これから知っていけばいい。医者になるんだろ?だったら、今まで身につけてきた事を、最大の武器にすればいいさ」


 この実習で、たくさんの事を学んだ。医院長の言葉が、私の中に大きな力になっていく気がした。これも、人とかかわったからだと思う。ずっと、必要以上に人とかかわってこなかった私には、衝撃としか言いようがなかった。
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