極道に過ぎた、LOVE STORY
 「轟川組三代目組長の娘、轟川幸。何故、私を襲った?」

 男達を睨んだ。

 「ち、違う、俺達は頼まれただけだ……」


 私は、スマホを手にして羽柴の名をスライドした。

 「私を襲った男達を確保した、裏口まで来てくれ」

 「す、すみません。見逃してください」

 男達が、今にも泣きそうな声で訴えてきた。

 「悪いけど、組の問題でもありそうだから、私にはどうにもね」

 「そ、そんな。組って……」


 「全く、五人もどうやって裏口まで連れて行くんだよ」

 康が、げんなりした声を上げると。

 「何だか、騒がしいわね。お手伝いして差し上げても良くてよ」

 うん?

 声のする方を見ると、玲香がふわっとしたベージュのワンピース姿で立っていた。この前、泣き崩れていた姿とは別人のようだが。

 「手伝うってあんたが?」

 「まさか。変な男に貢いだ事がパパにバレちゃって、監視役つけられちゃったのよ」

 唇を尖らす玲香の後ろには、いかつい男が立っていた。大学まで監視役つけるなんて、異常な心配性の親なのか? それとも、玲香がとんでもない事をやらかしているのかのどちらかだろう。

 「手伝ってあげて」

 玲香の声に、監視役の男は倒れている男二人を引きずりあげた。

 康と監視役に、逃げる事が出来なくなった男達は引きずられながら、一目につかないよう裏口に向かった。


 「お嬢、お怪我は?」

 羽柴とトモが、大学の裏口で落ち着きなく待っていた。

 「ええ。大丈夫。後は、頼んだ」

 康と監視役に連れられた男達を引き渡した。

 「五人もですか?」

 トモが呆れたように、男達を見る。

 「すみません。もうしないので、見逃して下さい」

 男が、泣きながら膝まつこうとしている。


 「こんな場所でお嬢の迷惑だ。いいから来い!」

 トモの声は迫力があり、男達はビビって歩き出した。もちろん、その先には数人の組の人間が待ち構えていた。

 「この方は、どちら様で」

 羽柴が、監視役の方に目を向ける。

 「はーい。私の監視役なので、気にしないで下さいね」

 玲香が、ニコリと笑った。本当にこの女は、ヤクザを目の前に動じないとは、一体どんな育ち方をしてきたのかと思う。

 「はあ」

 流石の羽柴も、返事に困っている。


 「詳しい事がわかったら、ちゃんと教えて」

 「承知しました。康さんもお怪我はないですか? お嬢の事、ありがとうございました」

 羽柴が深々と頭を下げる。

 「いいえ。俺は、幸のためなら何でもやっちゃいますから」

 康が満面の笑みで、ガッツポーズをした。

 「何、バカなこと言っているのよ」

 私は、呆れて康の顔を睨んだ。


 「あら。なんだ、そういう事なの」

 玲香が、面白そうに康の背中をバシッと叩いた。


 「何、言ってんだか? でも、玲香、助かった。というか監視役さん、ありがとう」

 お礼を言うと、監視役は何でもない事のように軽く頭を下げた。


 羽柴も、頭を下げてトモの後を落ち着いた足取りで追いかけて行った。後は、パパの判断になるだろう。多分だが、パパは一般の人達を巻き込むことを嫌う。この男達も、怖い目に遭う事にはなると思うが、もう二度とこういう事に手は出さないだろう。それを、私も望んでいる。


 「ねえ。さっきの若い人、かっこよかったよね? 誰?」

 「ヤクザだよ」

 トモの姿をキラキラした目で追っている玲香に向かって言った。今度はヤクザに惚れだなんて事になったら、玲香の父があまりに気の毒だ。玲香の後ろに不安気に立っている監視役も気の毒だ。
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