極道に過ぎた、LOVE STORY
 「康は、喧嘩慣れしているの? 中々の腕だったけど」

 「褒めていただけて嬉しいね。親の影響で、子供の頃から空手やってからな。ちょっとだけボクシングも齧った。中高と野球部っだったから肩の力には自信ある」

 康は、肩を回して見せた。


 「へえー。康ってアパートで一人暮らしよね?出身は?」

 何となく絡む事が多くなっていたけど、康の事は何も知らない。まあ、聞かなかただけだが。

 「長野の田舎。元々は東京だけど、じーちゃんが年取って仕事できなくなってから、長野に移った」

 「じゃあ、長野で空手やボクシング習ったのか?」

 「まあね。とは言っても、喧嘩らしい事をしたのは今回が始めてだけど」

 康は肩をすくめた。


 康と話をしている目の前に、黒い車がすーっと止まった。

 後部座席から、羽柴が降りてくる。助手席からトモが降りてきて、辺りを確認する。

 「お帰りなさい。お嬢」

 「ただいま」

 「変わった事は、なかったですか?」

 羽柴が、眉間に皺を寄せた。

 「そうね。この男が絡んで来たくらい」

 「何! お前、お嬢に手出したんか?」

 トモが、ギロリと康を睨み、今にも殴りかかる勢いだ。

 「おいおい。勘弁してよ、幸」

 康は焦った顔の前で、両手を左右に振った。


 「しかし、お嬢、先日の事もありますから、大学の中も危ないのは確かです。なるべくお一人にならないようにして下さい」
 「何を言ってる? 生徒を巻き込んだらどうする!」

 「しかし、お嬢……」

 「そうだよ幸。俺も、出来る限り一緒にいる」

 「結構よ!」

 私は、まだ何か言いたそうな康を残して車に乗り込んだ。


 「お嬢、我々が大学に入れないのなら、康さんとなるべく一緒にいて下さい」

 「羽柴。あの男はこの世界の人間じゃない。巻き込むな。康に頼む事ような事をするんじゃないよ。トモもいいな!」

 「はっ」

 羽柴とトモは、頭を下げた。


 この前は、正直あの程度の奴らだったから、康も軽く交わせたのかもしれない。もし、腕の立つ奴に襲われたら、そうは行かないかもしれない。

 組の人間以外を、巻き込むことだけはしたくない。

 車の窓から外に目を向けると、自転車に乗る康の姿が目に入った。頬に触れた康の手の温もりと、康の匂いを思い出してしまい、胸の奥が苦しくなった。
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