極道に過ぎた、LOVE STORY
 だが、今までの人生で、こんなに怒られた事があっただろうか? わずかなミスが命に関わる事もあるのだから当然であるが、自分がこんなに出来ない人間だとは思わなかった。

 でも、出来なきゃ出来るようになるまでやるだけだ。

 そん中、外科病棟の看護師の中に、まだ二年目らしく慣れない事もあるようだが、必死に患者に寄り添う看護師がいた。矢澤紗奈とネームに書いてあった。


 「実習生も手を貸して!」

 看護師の声に、救急の方への指示が出た。

 近くで、バス事故があったらしく、多くの患者さんが運ばれてきていた。

 「患者さんの声掛けして!」

 矢澤の声が響いた。

 とにかく、声をかけ、医師の指示に出来る事を探すと同時に邪魔にならないように動く事が重要だった。

 目の前に苦しむ患者さんに、何も出来ない自分がもどかしくて仕方ない。早く、一人前の医者になりたい。


 「実習大変でしょ」

 何とか、状況が収まり、病棟に戻る途中で矢澤さんが言った。

 「ええ。もう、毎日必死です。看護師さんも、大変なお仕事ですね」

 「そうね。でも、やりがいもあるし、どうしても医療の現場で働きたかったの」

 「矢澤さん、凄いですね。あの状況でも動じない」

 「まさか。私だって必死よ。もっと、出来る看護師になりたい。私の、名前、覚えてくれたのね?」

 「ええ。もちろんです」

 「ありがとう、幸さん。早く幸先生って呼べるようになって下さいね」

 「はい」

 その後も、矢澤とは勤務が重なると話をするようになった。


 長い実習が終わる頃には、多くの事を学び、少しだけ成長できた気がした。そして、ここでは轟川の名がどうとか、そんな事、どうでも良い事だった。とにかく医者というものを知るための場所と時間だったと思う。


 無事に実習を終えた最後の日、廊下に立ち患者さんの様子を見ている医院長の姿を見かけた。さすが、医院長だけあって、病院に居ない事が多かった。

 「あの、お話よろしいでしょうか?」

 私は、医院長の元に行き、思い切って声をかけた。

 「ああ、轟川君だね」

 「はい。この度は実習受けて下さり、ありがとうございました。この経験がなければ私は、医者になることが出来なかったかもしれません」

 「なあに、優秀な学生の実習を受けただけだ。何を学び、何を力にしたのかは君自身の努力次第だ。ここで、見ていると、色々な事に気付かされる。色々な事情があるかもしれないが、皆、病気を治したいと思ってきている。我々は、その期待に応えるだけだ。それ以上のそれ以下でもない。わかるかね? 医者の事情も関係ないって事だ」

 「はい。私は、医者になりたいです。苦しむ人を一人でも多く助けたい」

 「これから、医者として働く上で、君を苦しめる事があるかもしれない。でも、医者である事に誇りを持って欲しい」

 「はい」


 「それと、玲香の事は感謝している」

 「えっ? 私は何も……」

 「いや、玲香が本気で、医者になりたいと思ったのは、君に出会ってからだろう。玲香が誰かの為に、金以外の事を頼んできたのは始めただからな。そんな君に会ってみたいと思って、実習を受けたのもあるがね。これからも、よろしく頼むよ」

 医院長は楽しそうに笑った。
< 43 / 84 >

この作品をシェア

pagetop