極道に過ぎた、LOVE STORY
誕生日の朝、黒服の男達がエプロン姿で家の中を行ったり来たりしている。
「蕎麦粉だ!」
男達の顔は、白い粉まみれだ。
「お嬢、お誕生日おめでとうございます!」
一列に並んだ男達が、一斉に頭を下げた。
「ありがとう」
テーブルの上には、大量の蕎麦が盛り付けられている。その他にも、唐揚げにハンバーグ、大きなケーキもある。
お蕎麦を、つゆに付けて食べる。いつもより、太くて短い。
でも……
「美味しい!」
本当に美味しかった。
男達は、ほっと息をつくと、その場に座り込んだ。
「幸、これはパパからだ」
パパが、私の好きな水色のリボンのかかった四角い箱を差し出した。
「わあー!」
箱の中からは、欲しかったタブレットが出てきた。
「ずっと欲しがっていただろ?」
「うん。パパ。ありがとう」
「ちょっと貸してごらん」
パパは、素早くタブレットの画面を操作すると、私の方へ向けた。
『幸、七歳のお誕生日おめでとう!』
タブレットの画面をじっと見る。
「ママ!」
「しばらく見ないうちに、大きくなったわね」
「ママ〜」
ママの顔を見たら、目から涙が溢れ出てきてしまった。
「あらあら、せっかくの誕生日に泣いたりしたら勿体無いわよ。もっとよく顔見せて」
「ママ、具合は大丈夫なの? いつ帰ってくる?」
「ええ。気分はとても良くなったわ。まだ、帰れないけど、パパや皆と一緒に待っていてね」
「うん」
久しぶりに会ったママは、変わらず綺麗で優しかった。
その時、ガタガタと大きな音がして、慌ただしく男が入ってきた。
「兄貴!」
「どうした?」
「店で若い奴らがトラブってます。ちょっと厄介な事になりそうで、収まり付きません!」
「わかった。羽柴、幸を頼む」
「はい」
羽柴が頭を下げる。
「お嬢、行きましょう」
「どこに?」
「大丈夫、心配はいりません」
羽柴が私を抱き抱えて走り出した。
羽柴に連れてこられたのは、大きなホテルの一室だった。
「しばらく、ここにいましょう」
「どうして? パパは? 学校は?」
「家は危険です。お父様は大丈夫です。学校は、明日から連休です。休み明けからは行けますよ」
「本当に?」
「はい」
私は、大きなベッドの上でうずくまって寝た。
家に戻ったのは三日後だった。
出迎えてくれる男達の額や腕に、包帯を巻いている者もいた。そして、私は知っている。この騒ぎで命を落とした者もいることを。
悔しそうに頭を抑えて、苦しそうな声を上げて泣いているパパを見たのはこの時が初めてだった。
恐ろしい事が起きている。だから、友達は家に近づかないのだと。自分も強くならなきゃならない。
それから、私は必死で勉強した。習い事も塾へも行った。空手と剣道は、組の男達が教えてくれた。それに、加えて上流階級のマナーも習った。何かの役に立つかもしれないと、羽柴が言ったからだ。
「蕎麦粉だ!」
男達の顔は、白い粉まみれだ。
「お嬢、お誕生日おめでとうございます!」
一列に並んだ男達が、一斉に頭を下げた。
「ありがとう」
テーブルの上には、大量の蕎麦が盛り付けられている。その他にも、唐揚げにハンバーグ、大きなケーキもある。
お蕎麦を、つゆに付けて食べる。いつもより、太くて短い。
でも……
「美味しい!」
本当に美味しかった。
男達は、ほっと息をつくと、その場に座り込んだ。
「幸、これはパパからだ」
パパが、私の好きな水色のリボンのかかった四角い箱を差し出した。
「わあー!」
箱の中からは、欲しかったタブレットが出てきた。
「ずっと欲しがっていただろ?」
「うん。パパ。ありがとう」
「ちょっと貸してごらん」
パパは、素早くタブレットの画面を操作すると、私の方へ向けた。
『幸、七歳のお誕生日おめでとう!』
タブレットの画面をじっと見る。
「ママ!」
「しばらく見ないうちに、大きくなったわね」
「ママ〜」
ママの顔を見たら、目から涙が溢れ出てきてしまった。
「あらあら、せっかくの誕生日に泣いたりしたら勿体無いわよ。もっとよく顔見せて」
「ママ、具合は大丈夫なの? いつ帰ってくる?」
「ええ。気分はとても良くなったわ。まだ、帰れないけど、パパや皆と一緒に待っていてね」
「うん」
久しぶりに会ったママは、変わらず綺麗で優しかった。
その時、ガタガタと大きな音がして、慌ただしく男が入ってきた。
「兄貴!」
「どうした?」
「店で若い奴らがトラブってます。ちょっと厄介な事になりそうで、収まり付きません!」
「わかった。羽柴、幸を頼む」
「はい」
羽柴が頭を下げる。
「お嬢、行きましょう」
「どこに?」
「大丈夫、心配はいりません」
羽柴が私を抱き抱えて走り出した。
羽柴に連れてこられたのは、大きなホテルの一室だった。
「しばらく、ここにいましょう」
「どうして? パパは? 学校は?」
「家は危険です。お父様は大丈夫です。学校は、明日から連休です。休み明けからは行けますよ」
「本当に?」
「はい」
私は、大きなベッドの上でうずくまって寝た。
家に戻ったのは三日後だった。
出迎えてくれる男達の額や腕に、包帯を巻いている者もいた。そして、私は知っている。この騒ぎで命を落とした者もいることを。
悔しそうに頭を抑えて、苦しそうな声を上げて泣いているパパを見たのはこの時が初めてだった。
恐ろしい事が起きている。だから、友達は家に近づかないのだと。自分も強くならなきゃならない。
それから、私は必死で勉強した。習い事も塾へも行った。空手と剣道は、組の男達が教えてくれた。それに、加えて上流階級のマナーも習った。何かの役に立つかもしれないと、羽柴が言ったからだ。