極道に奏でたLOVE SONG
 何も気づかぬ振りをして平然と教室の中に入り、自分の机に向かった。
 机の引き出しを開けると、スマホはあった。

 「な、なんだよ。早く行けよ!」

 男子生徒の一人が、私に向かって言った。

 私は、ただ振り向いてその生徒の顔をジロリと見た。


 「ダサっ」

 攻撃している三人の男子に向かって言った。


 「な、なんだと!」

 一人の男子が私に向かってくるのが分かった。私は、ただ避けただけ。男子生徒は、勝手に転んだ。

 「お、おい、バカよせ。轟川だぞ」

男子生徒は、驚いた顔で私を見あげた。


 「親の借金で苦しんでる奴、あんたらまで苦しめてどうすんの? 本当、ダサっ。鏡で自分らの顔見てみたら」

 勝手に転んだ奴の腕を持ち上げて、教室の鏡の前に立たせた。


 「ご、ごめんなさい」

 他の男子生徒も慌てて膝まついて私に向かって謝ったが、正直どうでもいい。

 だけど……

 「謝る相手、違うよね」

 これは、筋が違う気がしたから言うべきだと思った。

 それだけ言うと、私は一度も手を離さなかった鞄をそのまま持ち、教室を後にした。


 多分だが、その後、男子グループのいじめは無くなったと思う。人を見てるからわかる事もある。男子生徒等の声が、以前のように戻ったように思えたから。


 しばらくして、父親の会社が倒産した男子生徒は転校が決まったようだ。そりゃ仕方ないかもしれない。私立の学校だ、授業料も半端ない。親の会社が倒産したら、払えるような金額じゃないだろう。


 「轟川さん」

 掛けられた声に振り向いた。外からの風に、長い黒髪が靡いて邪魔だと思った。

 「ありがとう」

 転校する男子生徒が、廊下の端に立っていた。人気もあっただけある整った顔だと思った。

 「別に、私は何もしてない」

 カッコつけるつもりもないが、本当に何もしていないのだから他に言う事もない。

 ありがとう……か、お礼なんて言われたの初めてかもしれない。


 だけど、振り返る必要もないから、そのまま前を向いて歩いた。
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