極道に過ぎた、LOVE STORY
LOVE STORY になるまで
「ねえ、幸。この服変じゃない?」
「ママは、何着ても似合うから大丈夫だよ」
クローゼットの鏡の前を行ったり来たりと、こんな事を始めて何時間経つのだろう。
「いい加減な返事しないで。パパに会うの半年ぶりなのよ!」
「えっ? 半年? ママ、パパが捕まる前に会ってるの?」
「会っているに決まっているでしょ。パパ、この家に居ない時は、ほとんどママのところに来ていたわよ」
家にあまり居ないのは仕事が忙しいからだと思っていたのに、まさかママの所にいたとは……
親がなくとも子は育つな……
「何それ?」
「だって、パパ、ママが居ないと何もやる気にならなくなっちゃうのよ。困っちゃう」
はあ? 悪党の中の悪の正体って、なんなんだろう?
秋晴れの気持ちよく青空が広がる中、重々しい塀に囲われた扉が、ぎこちなく開いた。
そこから姿を現したのは、少し痩せたパパの姿だ。
パパはゆっくりとこちらを見た。
すると、大きく目が見開いた。
「蘭ちゃーん」
パパが発した一声は、それだった。
「おかえり、宗くん。お勤めご苦労様」
ママも、にっこりと微笑む。
「蘭ちゃんも、相変わらず綺麗だよ」
「いやねぇ、宗くんたら。宗くん居なくて、大変だったんだから」
「ごめん、ごめん」
パパは、ママの肩なんて抱いちゃっている。パパとママが一緒にいる姿を見たのはだいぶ前のような気がする。こんなに仲が良かった事すら私は知らない。
「あの、私も居るんですけど。パパ、お勤めご苦労様です」
「幸! 立派になって」
半年で、立派になるわけないでしょ。あれだけ、幸、幸って、言ってくれていたのに、ママがいるとこんなもんなんだ。呆れて、小さなため息が漏れた。
三人振揃って振り向くと、そこには羽柴を始めとする、組の者達がズラリとと並んでいた。
「蘭ちゃん、また後でね」
そう言った、パパの顔は、一気に鋭い視線になり、誰もが恐るヤクザの組長の顔に変わった。
幼い頃から両親と一緒に過ごす時間は少なかった。寂しくなかったと言えば嘘になる。それを、誰かのせいにする事も、上手くいかない理由にする事も簡単だ。
人は勝手に人の人生の価値を決めたがる。不幸とするか、意外に楽しかったとするかは自分で感じる事だ。
羽柴と並ぶ組の奴らの顔を見る。皆、私が寂しくないように必死で面倒見てくれた。それを不幸だったなんて思うわけがない。
パパの姿を見て思う……
パパもきっとママという世界で一番大事な人と生きる道を、自分で決めて自分で選んだのだろう。
消して、正義では無いかもしれないけれど……
世間からの厳しい視線と、三代目という責任の重さを背負い、誰よりも強く真っ直ぐに……
パパとママが凛々しく並んで歩く背中に向かって言った。
「私は、パパとママの娘に生まれて良かった」
刑務所の塀の外で言うセリフでは無いが、でも、伝えたかった。
ゆっくりと振り向いたパパの顔は、クシャックシャで今にも泣きそうだった。
ママが、パパの背中を手の平でトントンと叩いた。
また、ママと前を向いて歩くパパに顔は、鋭いヤクザの顔に戻っているだろう。
「ママは、何着ても似合うから大丈夫だよ」
クローゼットの鏡の前を行ったり来たりと、こんな事を始めて何時間経つのだろう。
「いい加減な返事しないで。パパに会うの半年ぶりなのよ!」
「えっ? 半年? ママ、パパが捕まる前に会ってるの?」
「会っているに決まっているでしょ。パパ、この家に居ない時は、ほとんどママのところに来ていたわよ」
家にあまり居ないのは仕事が忙しいからだと思っていたのに、まさかママの所にいたとは……
親がなくとも子は育つな……
「何それ?」
「だって、パパ、ママが居ないと何もやる気にならなくなっちゃうのよ。困っちゃう」
はあ? 悪党の中の悪の正体って、なんなんだろう?
秋晴れの気持ちよく青空が広がる中、重々しい塀に囲われた扉が、ぎこちなく開いた。
そこから姿を現したのは、少し痩せたパパの姿だ。
パパはゆっくりとこちらを見た。
すると、大きく目が見開いた。
「蘭ちゃーん」
パパが発した一声は、それだった。
「おかえり、宗くん。お勤めご苦労様」
ママも、にっこりと微笑む。
「蘭ちゃんも、相変わらず綺麗だよ」
「いやねぇ、宗くんたら。宗くん居なくて、大変だったんだから」
「ごめん、ごめん」
パパは、ママの肩なんて抱いちゃっている。パパとママが一緒にいる姿を見たのはだいぶ前のような気がする。こんなに仲が良かった事すら私は知らない。
「あの、私も居るんですけど。パパ、お勤めご苦労様です」
「幸! 立派になって」
半年で、立派になるわけないでしょ。あれだけ、幸、幸って、言ってくれていたのに、ママがいるとこんなもんなんだ。呆れて、小さなため息が漏れた。
三人振揃って振り向くと、そこには羽柴を始めとする、組の者達がズラリとと並んでいた。
「蘭ちゃん、また後でね」
そう言った、パパの顔は、一気に鋭い視線になり、誰もが恐るヤクザの組長の顔に変わった。
幼い頃から両親と一緒に過ごす時間は少なかった。寂しくなかったと言えば嘘になる。それを、誰かのせいにする事も、上手くいかない理由にする事も簡単だ。
人は勝手に人の人生の価値を決めたがる。不幸とするか、意外に楽しかったとするかは自分で感じる事だ。
羽柴と並ぶ組の奴らの顔を見る。皆、私が寂しくないように必死で面倒見てくれた。それを不幸だったなんて思うわけがない。
パパの姿を見て思う……
パパもきっとママという世界で一番大事な人と生きる道を、自分で決めて自分で選んだのだろう。
消して、正義では無いかもしれないけれど……
世間からの厳しい視線と、三代目という責任の重さを背負い、誰よりも強く真っ直ぐに……
パパとママが凛々しく並んで歩く背中に向かって言った。
「私は、パパとママの娘に生まれて良かった」
刑務所の塀の外で言うセリフでは無いが、でも、伝えたかった。
ゆっくりと振り向いたパパの顔は、クシャックシャで今にも泣きそうだった。
ママが、パパの背中を手の平でトントンと叩いた。
また、ママと前を向いて歩くパパに顔は、鋭いヤクザの顔に戻っているだろう。