極道に過ぎた、LOVE STORY
 花岸病院の近くまでたどり着くが、緊急車両が優先になっているようでこれ以上先へ向かうの難しい。走った方が早そうだ。

 「お嬢、お気をつけて!」

 羽柴の声を背中に、車を降りると走り出した。


 裏口から病院の中に入る。

 急いで着替えると、処置室に入った。

 「幸先生!」

 矢澤の声が響いた。

 「帰国早々悪いね。右奥の女性を頼む」

 医院長の指示に、女性の元へ向かう。激しい火傷に覆われている。


 決して焦らない事、冷静な判断。素早く、処置に入る。まだ、廊下には怪我人がいる。優先順位を見極め処置していく。

 「さすがだね。幸先生」

 「矢澤さん、処置できる医師が増えたから、受け入れられると救急隊に伝えて」

 「はい」


 すると、小さな子供の姿が見えた。様子がおかしい。

 「痛いところがあるかな?」

 「お腹」

 腹部を触る。まずいな……


 「すぐにエコーの用意!」

 「はい」

 看護師の声が響く。


 「オペ室の状況は?」

 「今、終わったオペがあります」

 すると、オペ室の扉が開き、ストレッチャーに乗せた患者と出てきたのは、ケーシーを着た玲香だった。

 「玲香? なんで?」


 「状態は?」

 玲香も女の子の様子に気づいたようで近づいてきた。

 玲香が何故ここにいるのかは気になるが、それどころではない。


 「腹部が破裂しているかも」

 エコーで確認する。

 「子供の方は私が対応する」

 玲香の声は、数年前に増して自信のある医者の声だった。



 廊下の方が騒がしい。自分の怪我を先に見ろと騒ぐ声が響き渡っている。チラリと見ると、どっかの組の下っ端だろう?


 「どうしました?」

 「あんた医者か? だったら、早く見ろ!」

 その男の腕を掴んだ。

 「痛えぇぇ。何すんだよ」

 「見ただけだ。お前が見ろと言ったんだろ?」

 「なんだと、この女、舐めやがって!」

 「傷は浅い、番を待て!周りを見ろ。皆、不安で待ってんだよ。どこの組奴だか知らないが、不安にうろたえて情けない」

 グッと睨みを聞かせる。

 「うっ」

 男は黙ってソファーにドサっと座った。

 以前、この病院で医院長に言われた事がある『今まで身につけてきた事を、最大の武器にすればいい』と、本当にその通りだった。

 ロサンゼルスの病院で、どんなでかいギャングでも動じる事なく治療できたのは、その言葉のおかげだったと思う。


 その時、緊急治療室の緊急通報音が鳴り響いた。

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