極道に奏でたLOVE SONG
 「皆さんに聞いている事よ。来年は選択科目もあるから、将来の希望に合わせて選択していかないとね。轟川さんは、成績も良いし、医療系、学校の先生、英語の成績も良いから海外もいいかもね」

 「えっ? 私が?」

 「もちろんよ。当たり前のことを私は言っているだけよ」

 担任の言葉に、思わず羽柴の顔を見てしまった。

 「そうですね。幸さんは、成績も良いようですので、将来の事はしっかり考えていきましょう」

 羽柴は動じる事もなく、まるで当たり前の話をしているように笑みを見せた。

 羽柴と廊下に出ると、次の懇談の番を待っていたのは、あのアザのある女子生徒だった。隣に両親も座っている。羽柴が頭を下げると、彼女の両親も頭を下げるが、彼女と彼女の母は怯えたように小さくなっている。それに比べ、父親は腕を組み、にこやかにに笑みを見せる。

 人を見ろ。よく見ろ。何か違和感がある。


 彼女が名を呼ばれ教室に入っていったが、その姿から、目を離すことが出来なかった。

 「お嬢、いきましょうか?」

 「うん」

 羽柴は、私の一歩後について歩く。

 「羽柴」

 「何でしょう」

 「担任が将来何をしたいのか考えろと言ったけど、パパは私が四代目になると思っているんじゃないのか?」

 「さあどうでしょう? 私にはわかりかねます」

 「パパは羽柴に何も言ってないのか?」

 「はい。将来の事は、お嬢自身がしっかりと考えて行けばよと私は思っております。もちろん、最終的には父上のご承諾が必要かと存じますが」

 パパが、羽柴に四代目の事を話していないとは思えない。何か理由があるのだろう。それ以上聞いても、はぐらかされるだけだろう。

 「そうなのか? 私は、自分が四代目になるものだと思っていた」

 「お嬢。そんなに簡単に四代目になどなれるものじゃございません」

 「羽柴は、私に四代目になって欲しいとは思わないのか? 家業を継ぐのは当たり前の事だろ?」

 「そうですね。でも、正直あまりお勧めはしないですね」

 「それは、ヤクザだからなのか?もし、ヤクザでなく老舗のお菓子屋とか、大企業の一族でも同じことを言ったか?」

 「どうでしょうね? 潰れかけた飲み屋でも、インチキくさい会社でも、大事なのはその仕事を好きであるかではないでしょうか? お嬢は成績も優秀でいらっしゃる。お嬢自身がどうしたい良くお考えください」

 「そういうなのか」

 思ってもいなかった将来という言葉に、この時は戸惑いしかなかった。


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