あなたが好きなのはもう一人の私【漫画シナリオ】
第一話 君を好きで苦しい
○裕司の部屋
困惑したような裕司に擦り寄る茉莉乃。
茉莉乃「私に悪いことしたくて、部屋に連れ込んだんじゃないの? 大人しくしてて、可笑しいんだ」
耳に明るいウェーブ髪を掛けながら、茉莉乃は裕司に顔を近づけた。
裕司は慌てて彼女の肩を押して押し返す。
茉莉乃「どうしたの? なんか、怖がってる」
くすくす笑いながら裕司を見つめる茉莉乃。
裕司「いや、流石に違うと思って⋯⋯」
茉莉乃「違うのは裕司の方でしょ。結構、遊んでるって知ってるのよ。今更、純情ぶって変なの」
裕司は戸惑った顔をして、茉莉乃から顔を逸らす。
裕司「ごめん、君は茉莉乃の皮をかぶっているけど、茉莉乃じゃないだろう。全く唆られない。帰ってくれないか?」
茉莉乃「そっ! じゃあ、どうぞご勝手に。私が帰ったら、自分の妄想の中の茉莉乃のとよろしくやったら ?」
冷たく言い放つと、部屋を出ていく茉莉乃。
裕司は頭を抱えて蹲るのだった。
○家への帰り道(夕暮れ)
茉莉乃は電話を掛ける。
茉莉乃「瑠夏王子に言われた通り、重く思われないように軽い女のフリをして迫ってみたけどダメだったよ」
瑠夏「いい作戦だと思ったんだけどな。ふふっ、それにしても頑張ったね」
茉莉乃「頑張ったよ。わ、私、本当に頑張ったの。でも、裕司は全く唆られないって⋯⋯女の子として見られてないんだよ⋯⋯」
茉莉乃は涙が溢れてきた。
瑠夏「茉莉乃泣いてる? ごめん、俺の作戦が悪かった」
茉莉乃「裕司は結構、遊んでるんじゃなかったの? 私だけダメなの?」
瑠夏「ごめん、地味男が遊んでるっていうの嘘なんだ、そう言った方が、茉莉乃が殻を破れるかと思って」
茉莉乃「酷い! 恥かいた! 瑠夏王子、私で遊んでるでしょ。最低!」
茉莉乃は勢いよく電話を切る。
茉莉乃が角を曲がったところで、誰かとぶつかる。
鼻を抑えて蹲る茉莉乃。
瑠夏は彼女の腕を引いて、立ち上がらせる。
瑠夏「遊んでなんかいない。ただ、茉莉乃と裕司が上手くいかなければ良いという気持ちが少しはあった⋯⋯」
茉莉乃「何それ! 恋愛マスターの俺が応援してやるって言ったじゃない! 騙したの?」
茉莉乃の悲痛な表情を見て顔を顰める瑠夏。
瑠夏は一呼吸おいて、茉莉乃の頬を手で包み込んだ。
瑠夏「茉莉乃、好きだ。俺、お前のこと好きになっちゃたんだ」
茉莉乃は突然の告白に目を白黒させる。
瑠夏はそっと茉莉乃に顔を近づけると、茉莉乃は彼の頬を引っ叩いた。
茉莉乃「人を揶揄って楽しい? まだ、揶揄い足りないの?」
瑠夏「楽しいよ。残念だな。失恋直後で簡単に落とせると思ったのに⋯⋯」
瑠夏は表情を見られないように俯きながら呟いた。
茉莉乃「最低」
茉莉乃は冷たく一言言い放ち、走り去って行く。
瑠夏は徐に学生鞄からスマホを出し、裕司に電話を掛ける。
裕司「もしもし、瑠夏?」
裕司の声が沈んでいるのが分かり、瑠夏は溜息を吐く。
瑠夏「茉莉乃の事、何で拒否ったの? 今日はお前の好きな積極的な茉莉乃だっただろ?」
裕司「違う。僕が好きなのは純粋で真面目な茉莉乃だ。さっきの彼女は僕が好きな茉莉乃じゃない。茉莉乃はあんな風に自分を安売りする子じゃない。本当に茉莉乃が分からないよ⋯⋯一体、どうしちゃったんだ」
瑠夏は震える手でスマホの通話を切る。
瑠夏「ざけんなよ。散々奔放な茉莉乃に翻弄されてたくせに。何が僕が好きな茉莉乃じゃないだ⋯⋯」
瑠夏は思いっきりスマホを投げる。
地面には液晶が割れたスマホが落ちている。
瑠夏は屈んでスマホを拾う。
手で顔を覆い涙を流す。
瑠夏「茉莉乃、俺、モテるんだぜ? こんな想い、お前を好きにならなければしなくて済んだのに⋯⋯」
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