あなたが好きなのはもう一人の私【漫画シナリオ】

第二話 引き裂かれる心

○茉莉乃の家(夜)
1ヶ月前

茉莉乃は家に帰るなり、学生鞄から出した中間テストを握りしめる。

茉莉乃「どうしよう。やっちゃった」
部屋に足早に戻ろうと、階段を駆け上がろうとした時に腕を引っ張られる。
茉莉乃の母が睨みつけている。

茉莉乃の母「テスト、返ってきたのよね。見せて!」
茉莉乃は震える手で中間テストを差し出す。



茉莉乃の母、喜美子「何であんたは!」
喜美子はテストを受けとるなり、怒りの表情に変わる。
そして、そのままテストを放り投げた。
56点、58点、69点、72点、100点のテストが宙を舞う。

喜美子は手を振り上げ、驚いて縮こまった茉莉乃は階段を転げ落ちた。

喜美子「どうしてこんなに馬鹿なの? こんなんじゃ弁護士になれないじゃない」
茉莉乃「別にお兄ちゃんみたいに弁護士になりたい訳じゃない⋯⋯」
喜美子「なれないだけでしょ。努力が足りないのよ。化粧なんてして、色気付いて! 来なさい」
茉莉乃は喜美子に浴室まで引き摺り込まれる。

○暗い浴室

冷たい冷水シャワーを頭から浴びせられ、茉莉乃は泣き出す。

茉莉乃「制服が濡れちゃう!」
喜美子「うるさい! 本当にお前なんて産まなきゃよかった。産まなければこんな惨めにならずに済んだのに」
喜美子の言葉に茉莉乃は一瞬意識を失う。

喜美子「ねえ、聞いてるの? 起きなさい。このアホが!」
ゆっくりと目を開けて喜美子を静かに見据える茉莉乃。
従順な茉莉乃が決して見せない反抗的な目つき。

喜美子は思わずシャワーを落とす。

茉莉乃「うるせえんだよ。お前の遺伝子引いてるんだから馬鹿に決まってるんだよ」
喜美子「あんた、誰に向かって」
喜美子が振り上げた手を茉莉乃は捻りあげる。
茉莉乃「化粧なんかして? 自分は散々女使って妻を失って呆然としてたパパを落としたんでしょ。頭からっぽのコンパニオン風情が」
茉莉乃の冷たい表情と攻撃的な言葉に喜美子はシャワーも出しっぱなしで座り込む。

茉莉乃「頭冷やすのはアンタの方。私はもう十分やったの。お兄ちゃんと同じ学校にも受かったじゃない。これからは自由にやらせてもらうわ」

茉莉乃はニヤリと笑うと浴室を出て行った。
そして自室に戻りクローゼットを物色する。
クローゼットには黒や灰色の地味な服ばかり並ぶ。

茉莉乃「正気? 葬式かよ」
茉莉乃は黒いタートルのノースリーブに白いミニスカートを履くと外に出た。

月の光だけが道を照らす夜、繁華街に茉莉乃は足を進める。

○繁華街(夜)

ファーストフード店に入ろうとする鷹山裕司と小笠原瑠夏がいるのに茉莉乃が気がつく。

裕司は慌てて自分の着ている制服のブレザーを脱いで茉莉乃に羽織らせる。
茉莉乃は裕司の学生服のネクタイを引っ張ると彼に深い口付けをする。

瑠夏は思わず裕司から茉莉乃を引き剥がしていた。

茉莉乃「小笠原君、何? というか、裕司と小笠原君って仲が良かったの? タイプ全然違うじゃん」

瑠夏は一瞬寂しそうな顔をみせるも、余裕の表情を作る。
瑠夏「別に。ただ、塾の帰りが一緒になっただけ。園崎さんって大人しそうなのに大胆な事するんだね」
茉莉乃「表面的にしか人を見れないの? 小笠原君って意外とつまらない人。私は裕司と今キスしたいからしただけ」

茉莉乃はまた裕司のネクタイを引っ張りキスをしようとする。

裕司「ちょっと待って、茉莉乃。急にどうしたの?」
茉莉乃「どうもしてないよ。裕司も私に興奮してるんでしょ。好きなようにして良いんだよ」
茉莉乃の誘うような視線に戸惑い目を逸らす裕司。
それを見てクスクスと笑う茉莉乃を訝しげに見る瑠夏。

茉莉乃の兄「茉莉乃、こんなところで何して。夜遅いから帰るぞ」
茉莉乃「はぁ、邪魔者が入った」

茉莉乃は裕司の耳元に顔を近づけ、自分の羽織っている彼のブレザーを返しながら囁く。
茉莉乃「今度は二人きりのところで続きしたいな」
裕司はブレザーに残った茉莉乃の甘い香りと言葉に顔を真っ赤にして絶句する。

茉莉乃は兄の智也とその場を去って行った。

瑠夏「良かったじゃん。片想いじゃなくて、両想いみたいだよ」
裕司「あ、あれは俺が好きな茉莉乃じゃない」
瑠夏「なんだよそれ」
裕司「それにしても、茉莉乃はお前が幼馴染の『イルカ』だって気がついてないんだな」
瑠夏「それが? どうでも良いよ、そんな事。それよりお前って実はああいう悪い女に弱いんだな」

瑠夏の指摘に裕司は顔を真っ赤にし胸を抑えるのだった。
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