酔った勢いで契約したレンタルダーリンと期間限定の夫婦生活始めます!
とんとん。とんとん。一定の間隔で頭を誰かに、そっとたたかれている。気持ちいい眠りについていたのに、起こそうとしているのは誰だ。もうちょっとこのぬくもりの中で眠りたい。
「起きて。もうお昼だよ」
「んん……」
身体をぬくもりに寄り添わせて、顔をうずめる。ああ、良い匂いがする。あったかい。やっぱりこのまま、また眠ろう。
「そんな可愛いことをしてもだめだよ。夜眠れなくなったらどうするの?」
とんとん。また頭をそっとたたかれる。
ちょっと待って。今ものすごく近いところから葵さんの声が聞こえた。それにこの良い匂い、葵さんの匂いのような気がする。
瞼を持ち上げて、それと同時に顔を上げたら鼻先がくっつきそうなくらいのところに甘くとろけそうな笑顔を浮かべる葵さんの顔があった。
目覚めて一発目にくらったその色気に、きゅっと身体に力が入る。
「え、えええ、あ、あれ? 葵さ……ここは、どこ」
パニックのまま気づいたのだが明らかに私の家じゃない。落ち着いて、深呼吸しよう。状況を整理しなくては。
私は昨日友人と合コンに行って、気づいたら終電が終わっていて、合コン相手に変に絡まれていたところに格好良く葵さんが現れて助けてくれて――そこから記憶が無い。
「ここは君と俺の家だろう? 寝ぼけてパニックになってるね? 身体は平気? 昨日はちょっと激しかったからね」
「へ!?」
「いつもと違った君が見られて可愛かったよ。あんな風になっちゃうんだね」
「いつもと違った……あんな、風に……!?」
葵さんはいったい何を言っているんだろう。その言い方じゃまるで、なんというか、その――葵さんと一線を越えたみたいな……。
ごくりと生唾を飲み込んで私は自分の身体を見下ろした。これは私のためにレンタルダーリンの会社が用意してくれたパジャマだ。
え、待って。嘘でしょ。そんなことってある? 一晩のうちに何があったの。まったく覚えてないんだけど。
服の胸元を引っ張って自分の身体を確認する。そんなことだけで一線を越えたかどうかなんてわからない。
わ、私……本当に葵さんと繋がっちゃったの?
「昨日はあんなに激しくお酒を飲んで、酔っぱらった君を見られて。でもこれからあんまり飲み過ぎないようにね」
「あ、ああああ! そういう! そういうこと!」
思いっきり脱力してしまった。本気でびっくりした! あらぬ想像をした自分を脳内でぼこぼこに殴る。ばかやろう! この破廉恥め!
たまらず両手で顔を覆って唸ったら、葵さんが肩を揺らして笑った。
「もう! 葵さん!」
「んー? 何を妄想したのか教えてくれる?」
「わああもうわかっててそんな言い方するー!」
両手で顔を覆う私の頭をぽんぽんと撫でてくれる。今、気づいたけど葵さんに腕枕されている!
「ごちそうさまです……」
「はは、お粗末様です」
私が何に対して「ごちそうさまです」と言ったのかということをわかってくれているところがもう、さすが葵さんだ。
「昨日……私、酔っぱらいすぎて何か変なことしたり言ったりしなかった?」
「うん、大丈夫。ちょっとへにゃへにゃして可愛かったくらいかな」
「そんな! 簡単に! 可愛いとか言う!」
「可愛い、可愛い、可愛い」
「そんな良い声で囁かないで! 耳が幸せで溶ける!」
「可愛かったから、俺以外に見せないで」
ひゅっと喉が鳴った。
な、何、今のセリフ。からかうような連呼のあとの静かで落ち着いた声色。耳からすとんと胸の奥に落ちていくような、そこからちりちりと胸をくすぐるようなそんな言い方で。
目を見開いて硬直する私は、ゆっくりと目を閉じる。心臓のあたりの服をつかんで、力の抜けた情けない声で彼を呼んだ。
「あおい、さん」
「ん……実はちょっと、ヤキモチを妬いちゃったというか……」
「ヤキモチ?」
「君に酷いことをしようとした奴らのことが頭によぎって……その」
葵さんが見たことない表情をしている。少し照れくさそうに目を泳がせて、んん、と咳払いをすると謝った。
なにそれ。葵さんが、ヤキモチを妬いてくれたの? 嬉しすぎるんだけど。
ぐ、と唸った私は葵さんの胸に抱きついて顔を埋める。
「ああああ今もうこのまま目を閉じて天国に行ける。葵さん好き」
「じゃあ今日こそ『おはようのキス』をしようか」
「ダメですー!」
「そこだけは鉄壁だね」
いつものように軽い攻防戦のあと、結局額にキスをもらって両手で顔を覆ってしまう。
「チーズケーキを作ろうと思うんだ。だから一緒に材料を買いに行こう」
「葵さんが作ったチーズケーキ食べたかったの! 私、葵さんが作った料理が世界で一番好き」
力説するような私の言葉に、葵さんが鼻から息を、ふっと吐くように声を漏らして笑った。
「うん、知ってるよ」
まるで私のことなら全部お見通しだと、言い方や表情や雰囲気から伝わってきた感じがしてなんだか照れくさかった。身体が、かっと熱くなって、ちょっとだけ逃げるようにベッドから下りて脱衣所に駆け込む。
うう、あんな格好良い顔と声であんなこと言われたら一気に発熱してしまう。とりあえずこの照れくささの熱を冷ますために冷水を頭から……いや、風邪を引いたら大変だからやめておこう。
「起きて。もうお昼だよ」
「んん……」
身体をぬくもりに寄り添わせて、顔をうずめる。ああ、良い匂いがする。あったかい。やっぱりこのまま、また眠ろう。
「そんな可愛いことをしてもだめだよ。夜眠れなくなったらどうするの?」
とんとん。また頭をそっとたたかれる。
ちょっと待って。今ものすごく近いところから葵さんの声が聞こえた。それにこの良い匂い、葵さんの匂いのような気がする。
瞼を持ち上げて、それと同時に顔を上げたら鼻先がくっつきそうなくらいのところに甘くとろけそうな笑顔を浮かべる葵さんの顔があった。
目覚めて一発目にくらったその色気に、きゅっと身体に力が入る。
「え、えええ、あ、あれ? 葵さ……ここは、どこ」
パニックのまま気づいたのだが明らかに私の家じゃない。落ち着いて、深呼吸しよう。状況を整理しなくては。
私は昨日友人と合コンに行って、気づいたら終電が終わっていて、合コン相手に変に絡まれていたところに格好良く葵さんが現れて助けてくれて――そこから記憶が無い。
「ここは君と俺の家だろう? 寝ぼけてパニックになってるね? 身体は平気? 昨日はちょっと激しかったからね」
「へ!?」
「いつもと違った君が見られて可愛かったよ。あんな風になっちゃうんだね」
「いつもと違った……あんな、風に……!?」
葵さんはいったい何を言っているんだろう。その言い方じゃまるで、なんというか、その――葵さんと一線を越えたみたいな……。
ごくりと生唾を飲み込んで私は自分の身体を見下ろした。これは私のためにレンタルダーリンの会社が用意してくれたパジャマだ。
え、待って。嘘でしょ。そんなことってある? 一晩のうちに何があったの。まったく覚えてないんだけど。
服の胸元を引っ張って自分の身体を確認する。そんなことだけで一線を越えたかどうかなんてわからない。
わ、私……本当に葵さんと繋がっちゃったの?
「昨日はあんなに激しくお酒を飲んで、酔っぱらった君を見られて。でもこれからあんまり飲み過ぎないようにね」
「あ、ああああ! そういう! そういうこと!」
思いっきり脱力してしまった。本気でびっくりした! あらぬ想像をした自分を脳内でぼこぼこに殴る。ばかやろう! この破廉恥め!
たまらず両手で顔を覆って唸ったら、葵さんが肩を揺らして笑った。
「もう! 葵さん!」
「んー? 何を妄想したのか教えてくれる?」
「わああもうわかっててそんな言い方するー!」
両手で顔を覆う私の頭をぽんぽんと撫でてくれる。今、気づいたけど葵さんに腕枕されている!
「ごちそうさまです……」
「はは、お粗末様です」
私が何に対して「ごちそうさまです」と言ったのかということをわかってくれているところがもう、さすが葵さんだ。
「昨日……私、酔っぱらいすぎて何か変なことしたり言ったりしなかった?」
「うん、大丈夫。ちょっとへにゃへにゃして可愛かったくらいかな」
「そんな! 簡単に! 可愛いとか言う!」
「可愛い、可愛い、可愛い」
「そんな良い声で囁かないで! 耳が幸せで溶ける!」
「可愛かったから、俺以外に見せないで」
ひゅっと喉が鳴った。
な、何、今のセリフ。からかうような連呼のあとの静かで落ち着いた声色。耳からすとんと胸の奥に落ちていくような、そこからちりちりと胸をくすぐるようなそんな言い方で。
目を見開いて硬直する私は、ゆっくりと目を閉じる。心臓のあたりの服をつかんで、力の抜けた情けない声で彼を呼んだ。
「あおい、さん」
「ん……実はちょっと、ヤキモチを妬いちゃったというか……」
「ヤキモチ?」
「君に酷いことをしようとした奴らのことが頭によぎって……その」
葵さんが見たことない表情をしている。少し照れくさそうに目を泳がせて、んん、と咳払いをすると謝った。
なにそれ。葵さんが、ヤキモチを妬いてくれたの? 嬉しすぎるんだけど。
ぐ、と唸った私は葵さんの胸に抱きついて顔を埋める。
「ああああ今もうこのまま目を閉じて天国に行ける。葵さん好き」
「じゃあ今日こそ『おはようのキス』をしようか」
「ダメですー!」
「そこだけは鉄壁だね」
いつものように軽い攻防戦のあと、結局額にキスをもらって両手で顔を覆ってしまう。
「チーズケーキを作ろうと思うんだ。だから一緒に材料を買いに行こう」
「葵さんが作ったチーズケーキ食べたかったの! 私、葵さんが作った料理が世界で一番好き」
力説するような私の言葉に、葵さんが鼻から息を、ふっと吐くように声を漏らして笑った。
「うん、知ってるよ」
まるで私のことなら全部お見通しだと、言い方や表情や雰囲気から伝わってきた感じがしてなんだか照れくさかった。身体が、かっと熱くなって、ちょっとだけ逃げるようにベッドから下りて脱衣所に駆け込む。
うう、あんな格好良い顔と声であんなこと言われたら一気に発熱してしまう。とりあえずこの照れくささの熱を冷ますために冷水を頭から……いや、風邪を引いたら大変だからやめておこう。